棚橋弘至が2012年オカダ・カズチカ敗戦翌々日のラジオ出演で語った本心…もうひとつのレインメーカー・ショック(3)【週刊プロレス】
V11を達成し、これといった挑戦者も見当たらないことからオカダ・カズチカの対戦要求を受け入れた棚橋弘至。この時点では大半のファンが防衛回数を伸ばすと思っていた。むしろ東京ドームで挑戦を表明したふてぶてしい態度に、返り討ちにしてもらいたいとの思いを強めたファンもいたことだろう。 【写真】2012年の棚橋弘至vsオカダ・カズチカ そしてシリーズが開幕。その時点でも大半の見方は「オカダがどこまでやるか」。ところが、オカダにとって凱旋後、初の後楽園ホール大会で王者から直接フォール勝ちを記録。それでもまだ、ファンの目が“オカダ恐るべし”に変わることはなかった。ところが待っていたのは、IWGP史上最大の大番狂わせといわれる結果。今回は角度を変えて、レインメーカー・ショックを許した棚橋から見た当時のオカダの印象とは(橋爪哲也)。
シリーズ序盤で直接フォール負けを喫した棚橋弘至。その後も前哨戦は続いたが、借りを返すことなく決戦の日を迎えた。 それでもレインメーカーでカウント3を聞いたことで破壊力を身をもって知ったことから警戒心は強めたものの、焦りはなかった。 当時のオカダの試合展開は、防戦を強いられながらもカウンターのドロップキックを決めて形勢逆転。そこから一気に殺人フルコースに乗せ、レインメーカーで決めるというもの。棚橋自身、レインメーカーそのものより、勝負どころで放ってくるドロップキックをいかに食わないようにするかの意識の方が強かった。そして迎えた2012年2月11日、大阪府立体育会館。 「決してなめていたわけじゃないけど、序盤は“オカダにとって初めて経験する大一場で、どこまでやれるかな?”という感じで出方をうかがっていた感じですね。ドロップキックを食らったのも序盤でしたし、いつもと試合運びが違ってたので、IWGPが懸かってペースを乱してるのかなという感じ」 そんな棚橋の冷静さを欠いたのが、オカダが場外で放ったツームストーン・パイルドライバー。脳天からフロアに落とされた瞬間、「“あっ、これはやばいぞ”っていう空気感を感じました」と振り返る。 ただ、この表現からして棚橋自身が“やばい”と思ったわけではなく、会場の空気が変わったという印象。だがこれで棚橋もペースを乱されたのか、中盤からは棚橋が攻め込む場面が多く見られた。ただ、追い込んでいるというより、仕掛けが早くなった感は否めない。 王者が警戒していた一発逆転のドロップキックは出なかったが、最後はスリングブレイドをかわしたオカダが、一度はかわされたながらも振り返りざまに放ったレインメーカーで棚橋を吹っ飛ばし、カウント3を奪った。 試合の中で強く印象に残ったのが、終盤のあるシーン。レインメーカーをかわした棚橋が、スリングブレイド、両腕をロックしてのジャーマン・スープレックス、TWELVE SIXと畳みかけ、うつ伏せ状態のオカダにハイフライフローを決めた。そして続けてもう一発。コーナーに上がる前に棚橋は右手を天高く突き上げ、フィニッシュをアピール。決して間が開いたわけでもなく、素早く駆け上がってトドメの一発を放ったが、オカダは間一髪でヒザを立てて迎撃。そこから逆襲に転じる。 棚橋のボディーにオカダのヒザがめり込んだ瞬間、会場は悲鳴でもなく歓声でもなく、また驚きでも声に包まれた。いや、その声が発せられる前に一瞬、空白の時間があったように感じられた。 もちろん棚橋は勝利を確信して飛んだのだが、それは観客も同じ。もともとハイフライフローは、その技自体でダメージを与えてカウント3を奪う技ではない。それまでに十分なダメージを与えて、トドメとして放つ。これで終わりだと幕を閉じるための“魅せ技”である。