藤原奈緒の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 失ってしまった愛おしい時間に思いを馳せて
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、2023年に地上波および配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第2回の選者は、ライターの藤原奈緒。(編集部) 【写真】朝ドラ史に残る名夫婦に 神木隆之介×浜辺美波の“老い”も美しかった『らんまん』 1. 『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系) 2. 『らんまん』(NHK総合) 3. 『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系) 4. 『今夜すきやきだよ』(テレビ東京系) 5. 『セクシー田中さん』(日本テレビ系) 6. 『いちげき』(NHK総合) 7. 『舞いあがれ!』(NHK総合) 8. 『日曜の夜ぐらいは...』(ABCテレビ・テレビ朝日系) 9. 『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系) 10. 『連続ドラマW フェンス』(WOWOW) 『ブラッシュアップライフ』は、視聴者の人生をありのまま肯定し、包み込むようなドラマだったと思う。何度も人生をブラッシュアップする主人公・麻美(安藤サクラ)を通して、視聴者は無数のあったかもしれない人生を想像する。それと同時に、彼女が人生を何度も繰り返すことによって、失ってしまった愛おしい時間について思いを馳せること。それは、私たちの人生の何気ない瞬間を慈しむことにも通じるのである。 『らんまん』という長田育恵が描いた槙野万太郎(神木隆之介)と妻・寿恵子(浜辺美波)の物語は、史実をただなぞるだけでなく、家と個人の葛藤を巡る物語として再構築し、さらには「どうやったら自分自身を大切にしつつ、誰かとともに生きられるか」という現代を生きる人々の共通の悩みに、万太郎・寿恵子の夫婦像、並びに長屋の人々との生活を通して向き合っていた。対する『舞いあがれ!』における、空を飛びたいと願いながら、なかなか飛べないヒロイン・舞(福原遥)もまた、現代を象徴する存在だったと言える。幼なじみの貴司(赤楚衛二)や久留美(山下美月)も含め、心優しい彼ら彼女たちが、自分たちなりの「空の飛び方」を見出す物語として興味深かった。 『こっち向いてよ向井くん』『今夜すきやきだよ』『セクシー田中さん』の3作品は、現代を生き抜くためのバイブルのようなドラマだ。実に見事に、いまを生きる20・30・40代のリアルな心情を描き込んだ。『こっち向いてよ向井くん』の言葉を借りれば「とうに滅びたはずの普遍の家族像」であるところの従来の家族観やジェンダーロールに縛り付けられることから、人々はようやく解放されつつあるのかもしれない。少なくとも、ドラマの中の彼ら彼女らそれぞれにその自覚はあって、そこに共鳴する私たちがいるのは確かだ。どれも、男女の考え方の違いを浮き彫りにしつつ、一方的に糾弾するのではなく、ごく自然な形で双方が歩み寄っていく姿を描いたことも興味深かった。 また、実に丁寧に、心の機微を描いた『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)、『初恋、ざらり』(テレビ東京系)も忘れがたい。 俳優陣の熱演が心に残る『大奥』(NHK総合)、『どうする家康』(NHK総合)も良かったが、何より衝撃的だったのが、宮藤官九郎脚本『いちげき』。歴史を作った立役者はほとんど出てこず、非正規部隊のみを描いた本作は、それゆえに残酷で、生々しい。また、宮藤脚本・監督の『季節のない街』(ディズニープラス)も、切なくて愛すべき人たちの日常を描きつつ、それが「なかったことにされる」現代の危うさをも呈示しており、実に興味深かった。 優しいようでいて、残酷な現実が見え隠れする岡田惠和脚本『日曜の夜ぐらいは...』は、ハッピーエンドを描いているようで、肝心なところはヒロインによる「こうあったらいいのに」の夢として描かれる。その切なさは、2023年にこの世界に生きている「全ての戦士たち」の現実の過酷さの記録とも言える。 安達奈緒子脚本『きのう何食べた? season2』は、シロさん(西島秀俊)とケンジ(内野聖陽)の2人が、より一層互いを思いやりながら歳を重ねていくこと、彼らと社会との緩やかな繋がりが殊更丁寧に描かれていることの素晴らしさに尽きる。野木亜紀子脚本『連続ドラマW フェンス』は、知っているようで何も知らなかった沖縄について学べる作品であるとともに、松岡茉優と宮本エリアナ、そして新垣結衣が丁寧に演じた、女性たちの連帯のドラマとして特筆すべきものがあった。
藤原奈緒