『虎に翼』現在と地続きの差別問題に切り込む第18週 堺小春演じる小野の“橋渡し”が鍵に
娘の優未(竹澤咲子)を連れて行った麻雀大会で、弁護士・杉田太郎(高橋克実)の思わぬ過去を知った寅子(伊藤沙莉)。空襲で亡くした娘や孫を思い出して号泣する太郎を、航一(岡田将生)は「ごめんなさい」と呟きながら抱きしめた。その言葉の意味が気にかかったまま、『虎に翼』(NHK総合)第18週で寅子は航一と仕事で深く関わることになる。 【写真】小野を演じる堺正章の娘・堺小春 第86話では、三条市にあるスマートボール場で放火事件が起こる。容疑者として逮捕されたのは、本名・金顕洙(許秀哲)、通名・金子顕秀という朝鮮人の男性だ。顕洙は幼少期に家族と共に朝鮮から日本に渡り、 弟の広洙(成田瑛基)とともに今回被害に遭ったスマートボール場を経営していた。 しかし、兼ねてより経営不振で負債を抱えており、借金返済に追われる中である日の閉店後に火災が発生。火元が物置で火の気のない場所であったこと、事件が起きる前に火災保険に入っていたことから、現場から逃走していた顕秀が放火及び詐欺未遂の容疑で逮捕されたのである。 顕秀は容疑を否認しており、寅子と航一、判事補の入倉(岡部ひろき)による合議体での裁判が行われることになった。本人が容疑を否認している以上、まだ犯人と確定したわけではない。裁判官は裁判で検察官と弁護人の両方の主張を聞き、判決を下す仕事だ。にもかかわらず、入倉は「また朝鮮人か。事件ばかり起こして困った奴らですよ」と生まれた国だけで顕洙を犯人と決めつける。逮捕状請求にきた検察官からも差別的発言があった。 「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めた日本国憲法が公布されても、終わらない差別。桂場(松山ケンイチ)が言っていた「憲法が真の意味で国民に定着するかどうかも定かじゃない」という言葉を実感する入倉たちの差別的発言の背景には、朝鮮人や中国人たちが起こした数々の事件があった。 差別に異議を唱える寅子に、「いいやつらもいれば、どうしようもないやつも多い」と反論する入倉。だが、寅子が言うようにそれは、日本人にも言えることで国に限定されたことではない。 寅子たちがいる時代から100年近くが経った今も、この問題が他人事ではない現実を私たちは生きている。つい最近も、SNSで奈良公園にいる鹿を蹴る男性の動画が確証もないのに中国人と断定された状態で拡散されたり、「中国人・韓国人お断りします」とドアに書いた飲食店が物議を醸していた。実際にその国の人に迷惑を被った人もいるのかもしれない。けれど、だからといって他の人も同じはずだと決めつけ、不当に扱うことは差別に他ならない。私たちも顕洙に容疑がかかった放火事件を通し、この問題を寅子と一緒に考えていく必要がある。 初公判では、弟の広洙が傍聴席から顕洙の無実を訴えた。あわや退廷させられそうになったところ、同じく傍聴席にいた三条支部の事務員・小野(堺小春)が朝鮮語で広洙をなだめる。小野といえば、物静かな女性で寅子が三条支部に赴任してからほとんど口を開いていない。表情も豊かな方ではないが、広洙をなだめる時の顔は切実だった。そんな小野には、婚約が破棄になった過去があるという。彼女が傍聴席に座った理由はその過去に関係しているのだろうか。 美佐江(片岡凛)が何らかの形で関与していると見られる連続ひったくり事件に続き、刑事事件の難しさに直面している寅子。周囲の人にも事件の関係者にも、一人ひとりの人生に思いを馳せ、何でも首を突っ込もうとしてしまう彼女は常に誰かとの衝突が避けられないが、航一は「佐田さんはそれでいいんです」と言ってくれる。寅子にしかできないことがある。人によっては暑苦しく感じられる寅子の正義感に救われる人間もきっといるはずだ。
苫とり子