「殺すぞ」、バス会社「国際興業」社内でカミソリ入り脅迫文、運転士が精神障害に
労基署の判断への疑問も
提訴当日に、槙野さんと一緒に記者会見した代理人の白神優理子弁護士によると、休業補償給付の不処分決定でさいたま労働基準監督署長は精神障害の発病については認めているが、その原因である職場内のストレスについては程度が全体として「中」にとどまるとの認定だった。ストレスの程度には「弱」「中」「強」の3段階があり、「強」でなければ労災認定されないというのが厚生労働省の基準。白神弁護士は「脅迫文のストレスが『中』にとどまると労基署が判断した理由は『真犯人が誰かがわかっていない』からという、おかしな理由だ」と批判する。 訴状ではストレスの程度について「脅迫という犯罪行為が存在し、原告の人格を否定する常軌を逸したいじめ・嫌がらせが存在すること、これについての会社の支援が欠如し『会社にいられなくなるぞ』と脅して被害届を出すことを阻止する暴挙に出たこと等の事情を考えると、原告が受けていた心理的負荷の強度は、明らかに『強』と判断される」と指摘する。 また、槙野さんが休業補償給付を求める手続きで労基署の面談を受けた際、労基署職員からは他の営業所への異動を示唆するような不適切発言があった。これについては今年3月に埼玉労働局の労災補償課長が槙野さんに口頭で謝罪した。白神弁護士らが謝罪に至る書類の開示を求めたところ、ほとんど黒塗りだったため、提訴と同日の8月7日、槙野さんは審査請求を行なった。 槙野さんは会見で「あこがれだったバスの運転や私生活もまともにできなくなってしまった。提訴により、自分の人生を一日も早く取り戻したい」と語った。 国際興業広報課は、槙野さんが訴えの中で、脅迫文に関して上司らに相談した際に「被害届を出すと、会社にいられなくなる」と脅されたとしている点や、指導運転士からのパワハラに関して、いずれも「会社として把握していない」とコメントしている。
竪場勝司・ライター