フェラーリの傘下で開発された「危険な香りを残す」Maserati |1998年式 マセラティ 3200GT|ハチマルユーロー vol.26
フェラーリの指揮下で開発されたスーパークーペ 1993年、それまでのデ・トマゾ・グループから離脱し、新たにイタリア自動車界の巨人フィアット・グループの傘下に収まったマセラティは、その後97年から2005年まで同グループに属するフェラーリの管轄下で再起を図ることになった。 デ・トマゾ時代に主力商品だった「ビトゥルボ」とその係累たちは当初こそヒットを博するものの、品質問題から評価を落としていた。 1914年創業の名門マセラティは、フェラーリのルカ・ディ・モンテゼーモロ会長の指揮のもと、抜本的な変革を迫られていたのだ。 【画像14枚】創業1914年と、フェラーリよりも遥かに長い歴史を誇るマセラティだが、80年代にはデ・トマゾ傘下で、その伝統にはふさわしくない量産モデルで生き延びていた。 そんな折、新たにフェラーリ傘下で開発されたスーパーカー級のGTが誕生した そんな状況のもと、98年にデビューした3200GTは、70年代末頃にボーラやカムジンが消滅して以来、量産クーペ「ビトゥルボ」とその発展モデルで糊口をしのいできたマセラティとしては、久方ぶりの本格的グランツーリスモに仕立てられた。 エンジンは、元々「シャマル」のために設計されたのち、4代目「クアトロポルテ」にも使用された3.2ℓ V型8気筒ツインターボをベースとするものの、新たなチューンナップを受けて、かつてのマセラティ黄金時代に製作されたスーパースポーツの傑作、「ギブリ5000SS」さえも遥かに上回る370psを発揮。 独ゲトラーグ社製6速MTを介して280㎞/h、豪州BTR社製4速ATを介しても275㎞/hの最高速を標榜するなど、いわゆる「スーパーカー」としても申し分ない性能が与えられていた。 また、サスペンションも前後とも強固な鍛造アルミ製アームによるダブルウイッシュボーン。 こちらは同時代のフェラーリに準ずるものであった。 イタルデザインによる実用性とスタイルを両立したデザインワーク 一方、実用性とスタイルを兼ね備えた秀逸なボディデザインは、イタルデザイン社のデザインワークによるもの。 ただし、開祖ジョルジエット・ジウジアーロではなく、長男のファブリツィオがデザインを担当している。 そして上質なレザーで仕立てられたインテリアは、ビトゥルボ以来「クアトロポルテ・エボルツィオーネ」まで長らく続いたゴージャスなスタイルを放棄。 マセラティの伝統にはよりふさわしい、質実なデザインとされた。 つまりマセラティ3200GTはすべての面において、かつての「ミストラル」や「ギブリ」の血統を確かに受け継いだ、本物のイタリア式スーパースポーツとして誕生したことになるのだ。 3200GTは一定の成功を収め、2001年にはサスペンションをハードに仕立てた「アセットコルサ」を世界限定250台で追加設定された。 そして同じ年には4.2ℓ V8・NAを搭載した「マセラティ・スパイダー」も登場したのち、翌02年には次世代モデル「マセラティ・クーペ」にあとを譲るかたちで生産を終えた。 マセラティ3200GTの象徴とも言われるのが、ブーメラン型のテールランプと「暴力的」とも称されるターボの加速感。 ただ、その両方とも後継車「クーペ」には継承されなかった。 前者のテールランプは、当時としては画期的なLED。 ところが大市場であるアメリカの法規では光量不足であることから「クーペ/スパイダー」では、より大型の扇型テールランプに変更した……、と説明された。 ところが、のちに筆者がファブリツィオ・ジウジアーロさん本人から聞いたところによると「フェラーリのモンテゼーモロ会長の意向による変更」とのこと。 今や真偽のほどは定かでないが、可能性としてはないとも言えないだろう。 またスパイダーへのリデザインが、オリジナルの創造者であるイタルデザイン社でなく、ピニンファリーナ社に任されたことにも、彼が少なからず不満を抱いていた様子がうかがわれた。 そして後者、加速フィールについても然りである。 ビトゥルボからシャマルまで継承されたツインターボ過給は3200GTの生産終了をもって一旦終わりを告げ(現行「ギブリ」で復活)、クーペ/スパイダーではスムーズかつ上品な大排気量&自然吸気のV8が搭載され、こちらも十分な成功を収めたのは事実である。 でも、いかにも古き良きターボ車らしい怒涛のトルク感は、MTであってもATであっても魅力的。 それゆえか、クラシックカー市場でも「クーペ」に勝るとも劣らない人気を得ているという。 危険な香りを残した最後のマセラティ フェラーリの指揮のもと、世界的高級ブランドとしての復活を告げるべく開発され、名門復活の始まりとなった3200Tだが、同時にあらゆる点で「ハチマル的」な、粗削りな魅力も残している。 それは、デ・トマゾ時代の危険な香りを残した最後のマセラティとも言えるのかもしれないのだ。 主要諸元 SPECIFICATIONS 1998年式 Maserati 3200GT ●全長×全幅×全高(㎜) 4510×1822×1305 ●ホイールベース(㎜) 2660 ●トレッド(㎜) 1525/1538(前/後) ●車両重量(㎏) 1590 ●エンジン種類 V型8気筒DOHC(ツインターボ) ●総排気量(㏄) 3217 ●内径×行程(㎜) 80×80 ●最高出力(ps/rpm) 370/6250 ●最大トルク(㎏-m/rpm) 50.0/4500 ●ブレーキ ベンチレーティッドディスク ●タイヤサイズ 225/45 ZR 18 245/40 ZR18
Nosweb 編集部
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