〈本社の経営は旧態依然〉日本企業の多国籍化が進んでも手放しに喜べない理由、企業経営に求められる2つの課題
日本本社はどうタクトを振るうべきか
2つ目は、日本の本社をどうするのかという問題だ。空洞化を伴う多国籍化をしているにせよ、日本の企業は依然として本社を日本国内に置いている。 その日本企業の業績は良いに越したことはない。業績が良ければ、株価も上がるし、国内の本社の給与も上がり日本経済への寄与も生じる。その意味で、日本企業の収益が低く、それは本社の経営力不足によるのであれば、改めるべきであろう。 この点こそ、経産省の問題提起の本筋であり、スライドの示唆する方向性はシンプルだ。それは、日本の本社も経営力を高めてグローバルな水準に近づけよということだ。
グローバルな水準に近づけよというのは、2つのことを意味する。1つは企業全体の共通言語は英語になるべきだ。日本の経営者が英語でハイレベルの経営ができるということが、何よりも最優先である。また日本以外の雇用というのは「ジョブ型」であり、専門性を売り物として企業に入ってきた人材である。 そうした専門職集団を統御してゆくには、「自分は何も知らないが判断だけはするので、ブリーフィングは丁寧に頼む」などという、日本流の経営では全く不十分である。あらゆる階層の専門職にナメられないだけの「経営という専門職能」を極めていくことは何としても必要だ。そのように統制を効かしてゆく中で、米欧の主要企業と同様に20%以上の利益率を稼ぐ体質を作っていかなくてはならない。 ここで心配なのが、その日本の本社事務部門の位置づけである。日本の本社事務部門は、今でもデジタルトランスフォーメーション(DX)で遅れを取り、日本語という特殊な言語を使っていることや、さまざまな規制のために紙の文書を廃止できないとか、会計基準が異なるなどのハンデを背負っている。 それでも、今は円が安いので事務部門の経費は、ドルベースの連結決算では圧縮される。従って、多少の非効率は許容される面がある。 仮に諸々の条件に変化が起きて、円安トレンドが反転したとしよう。そうなると、この種の非効率は全体として無視できなくなり、事務の効率化に厳しい目が向けられることはあり得る。反対に、現在以上に更に円が安くなる場合には、円建ての国内資産比率の高い企業の場合は、海外勢の買収攻勢にさらされる危険が増大するであろう。