これだけ読めば会社の中身は把握できる…投資初心者が目を通すべき「2つの開示資料」の正しい読み方
投資家は企業の開示資料をどのように読み解いているのか。公認会計士の川口宏之氏は「速報性に優れた『決算短信』に加えて、『有価証券報告書』を読んでおけば、会社の中身はだいたい把握できる」という――。 【図表】味の素の有価証券報告書「特記事項」(一部) ※本稿は、川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 ■会社の中身を把握するために見るべき2つの開示資料 特に株式投資をしている人たちにとっては、今期の決算がどうなったのかは、非常に関心の高いところだと思います。それを知ることができるのが、企業の開示資料(IR資料)です。 上場企業は1年を通じて、さまざまな開示資料を作成しています。これを「ディスクロージャー」とも言いますが、要するにその会社がどのようなビジネスを展開していて、どのような結果を出したのかを投資家に対して開示するためのものです。 ざっと挙げていくと、「有価証券報告書」「決算短信」「コーポレート・ガバナンス報告書」「統合報告書」「株主通信」「決算説明会資料」あたりが代表的なもので、もう少しディスクローズに積極的な会社だと、これらに加えて「中期経営計画」「知的財産報告書」などを出しているところもあります。 でも、手っ取り早くその会社の中身を把握するならば、これらの資料すべてに目を通す必要はまったくありません。ぶっちゃけて言えば、「決算短信」と「有価証券報告書」だけで十分です。
■投資判断を早く下すうえで「決算短信」は有効 「決算短信」は、決算期末後45日以内に開示することが適当とされている速報性に優れた資料です。 「今期の決算は非常によかったらしい」「どうも減益になりそうだ」といった市場の噂話は、実際に決算短信が開示される前にも方々で流れてはきますが、基本的には噂の域を出ません。その点、決算短信に記載されている数字は、監査法人のレビューはもらっていないことになっているとはいえ、相応に信頼が置ける数字です。つまり投資判断を正確、かつ早く下すうえでも、決算短信は有効なのです。 ちなみに決算短信に掲載されている内容は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書、そして簡単な注記が主なところで、その他、複数の事業領域を持っている企業の場合は、セグメント情報も記載されています。 貸借対照表と損益計算書は、第1四半期から本決算まで年4回、必ず決算短信に掲載されますが、キャッシュ・フロー計算書は第2四半期と本決算のみ開示すればいいことになっています。 3月決算企業の場合、第2四半期は9月末の中間決算になります。 ちょうど半期を終えたというキリのいいところなので、中締め的な意味合いから、キャッシュ・フロー計算書も開示することになっているのです。 ■「四半期報告書」と「四半期決算短信」の違いとは なお、有価証券報告書には「四半期報告書」といって、四半期決算短信とほぼ時を同じくして開示される資料があります。 「それなら決算短信の速報性は?」と思った人もいらっしゃると思いますが、四半期報告書が作成されるのは第1四半期、第2四半期、第3四半期で、本決算はあくまでも有価証券報告書になります。 本決算の有価証券報告書は、決算日から3カ月以内の開示なので、本決算の数字をいち早く把握するのであれば、やはり決算短信が有効、ということになるのです。 ただ、四半期報告書と四半期決算短信との違いがほぼないこと、そして両方を作成するのは、会社側も負担が非常に重いということもあり、2024年4月1日から、四半期報告書を廃止して四半期決算短信に一本化することが決まりました。