「田んぼが海になった」 田鶴浜・地盤沈下で海水逆流 塩で稲穂枯れ、農家落胆
●「8カ月たって被害あるなんて」 七尾西湾に面する七尾市田鶴浜地区の農地約5ヘクタールに海水が流れ込み、塩害が深刻化している。市は能登半島地震による地盤沈下で海面との高低差が小さくなり、農業用水を海に流す排水路から海水が逆流しているとみている。「田んぼが海になってしまった。震災から8カ月たって被害があるなんて」。夏の潮位上昇とともに農道、排水路から塩水があふれて稲穂が次々と枯れており、農家は経験したことのない塩害被害に困惑の表情を浮かべている。 海水が流入しているのは七尾市深見町の海岸沿いの農地で、コシヒカリや飼料米を生産している。元日の地震で農地や水路に目立った被害はなく、農家は例年通り5月に田植えを行った。ただ、7月以降に深さ約1・5メートルの排水路から海水があふれるようになったという。 農業用水を七尾湾に流すポンプは正常に稼働しているが、排水路にたまった海水の排出が追い付かず、約5ヘクタールに深さ約20~50センチの海水がたまり、これまでに約3ヘクタールの稲が塩害で枯れて茶色に変色した。和倉温泉寄りにある川尻町、能登島や中島地区でも海水が流れ込んでいる農地がある。 海水が入った田んぼでは農業機械が使えず、長時間の手作業を強いられるため、放置されている状態。8月下旬に稲刈りを始めた生産者の福田教導さん(80)=深見町=は被害額が約500万円になると見込み「どうすればいいか誰か教えてほしい」とため息をついた。 七尾西湾に面する和倉温泉や石崎町では地震で護岸が崩れ、土のうや土留め用の鋼矢板(こうやいた)で海水の流入を防いでいる。和倉温泉の海岸線沿いと同じく、深見町の一部も埋め立て地であるため、市担当者は「一帯で地盤沈下が進んでいることも考えられる」と指摘する。 石川県と市は4日、現地を視察し、海水流入の原因を調べるとともに対策を検討していく。深見町の農家でつくる生産組合では今後、海水が流入しているとみられる護岸などに土のうを積む計画で、福田さんは「枯れた稲なんてカラスも食べない。少しでも田んぼを元通りにしたい」と話した。