『夜の巷』マツコ、『タモステ』タモリ…なぜ2人は“ゴールデンのロケ特番”が成立するのか
“日本礼賛バラエティ”の語り部に
振り返ると2010年代には「世界から見た日本」をフィーチャーした“日本礼賛バラエティ”がゴールデン帯に乱立する時期があった。 増えすぎた反動かネタ切れか、徐々に淘汰(とうた)されていったが、コロナ禍を経て外国人旅行者が増えた今、再び需要の高まりを感じさせられる。その点、マツコとタモリのロケには、単に「行きたくなる」を超えて「日本人として誇らしい」とまで思わされる人が少なくないのではないか。 最後に、映像面での効果も挙げておきたい。マツコとタモリは、視聴者に謙虚、安心感、信頼感を覚えさせる人物でありながら、「普通の人というより変人」「良い意味での気味悪さを武器にしていた」という背景が共通している。 マツコはゴールデン帯の番組に出始めたころ、女装や巨体のインパクトや違和感は強烈なものがあった。それは活躍が長期化するにつれて薄れていったが、スタジオを出てロケをすることで、ビジュアルのインパクトや違和感が復活。巨体を揺らしてスポットに現れ、現地の人とふれ合うだけで「特別なロケ番組」という印象を持たせられる。 一方のタモリはすっかり知的なイメージが定着したものの、オールバックのサングラス姿でロケをする姿はやはり目立つし、タレントではなく地方の素朴な人々とふれ合うことでそれが際立つ。実際、タモリがわんこそばを67杯も食べ、ふたを閉めて終わらせようとするも次々に入れられてしまって困る姿は、映像として意外性十分だった。 「ゴールデンの単独ロケ特番が成立する」という意味で、タモリはもちろんすでにマツコも、ある世代のレジェンドではなく、あらゆる世代にとってのレジェンドと言っていい存在なのかもしれない。 芸能界に大物は多いが、ゴールデン帯のMCとして現役の人はごくわずか。よく中堅MCを3~4人集めたロケ企画もあるが、ほとんど成功していないところが2人のすごさを物語っている。どちらも健康上の問題がない限り、不定期特番としてさまざまなロケ企画が放送されていくのではないか。 ■ 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
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