外信コラム 再訪誓うスパイの名所 MI5、MI6ゆかりの旧陸軍省ビルが超高級ホテルに
2度の世界大戦や東西冷戦で諜報活動の最前線だったロンドンは、英作家イアン・フレミングの「ジェームズ・ボンド」シリーズやジョン・ル・カレのスマイリー三部作などの傑作スパイ小説の舞台となった。 【写真】旧陸軍省の地下にあるスパイをモチーフにしたバーの入り口。内部は撮影禁止で、秘密の会合めいた気分が高まる そのロンドンに、英諜報史にまつわる名所が誕生した。英国政治の中心地ホワイトホールにある旧陸軍省の建物がラッフルズ・ホテルおよびレジデンスとして新たに開業したのだ。 旧陸軍省は1906年に建てられ、陸軍各部局に加え、情報機関の保安局(MI5)と秘密情報部(MI6)の前身組織が入居していた。チャーチル元首相が19~21年に戦争相として執務したほか、フレミングも海軍情報部員時代に出入りし、後の作品の着想を得ていたという。 建物の地下には宿泊客とレジデンスの住人しか入れない、スパイをモチーフにした小さなバーがある。筆者は幸運にも「潜入」に成功したのだが、フレミング作品のファンにはたまらない光景が広がっていた。 バーの部屋番号は007。中ではMI6長官の秘書ミス・マネーペニーを連想させる女性が出迎え、バーカウンターにはボンドの愛車、アストンマーティンDB5が鎮座する。これこそ筆者が理想とする隠れ家的なバーだと確信し、万難を排しての再訪を誓うのだった。(黒瀬悦成「ロンドンの甃」)