祝・あたしンち30年! ファンが選ぶ神回は? 「あたりまえ日常の尊さを感じさせてくれた」
「あたしンち」ファンにはつとに知られたファンサイト「あたしンちヶ丘5丁目」の管理人を務める井上照也さん(34)も、この遠回りの回を神回のひとつに挙げている。ほかに井上さんが挙げてくれた神回には、昨年AERAに掲載されたあの回も……。しみちゃんが、なぜかみかんにだけ「深いこと」を言える自分に気がつく話だ。 「2人の深い関係を示した回で、すごく印象に残っています。この漫画の魅力をひとことで言うと、自らが主人公になれるところ。感情移入しやすい、共感できるエピソードがたくさんあるところが魅力です。そして、あたりまえに感じていた日常的、庶民的な暮らしが実は幸せだったんだと感じさせてくれる作品でもあります」(井上さん) もうひとり、コミックエッセイ「セキララ結婚生活」で、作者のけらえいこさんにどっぷりハマり、「あたしンち」のディープなファンとなったという、かぼちゃんさん(55)。神回に選んだのは、みかんが学校の帰り道に見ている何げない情景を丁寧に描いた90年代終盤の回や、ユズヒコが藤野くんの家を訪ねる回(40ページ上)などだ。 「藤野くんの回はノスタルジックで、なんだか家庭の事情もありそうで。いつもユズヒコと楽しくふざけてる思いやりのある優しい藤野くんのリアルが見えた感じがして、ジーンとしました」(かぼちゃんさん) 「あたしンち」の母には、いつのまにか自分を重ねるように。 「30年前はまだ生まれていなかった子どもも、今は成人して独立。新たな自分の時間をどうしたらいいか、模索しているところです」(同)
■反響が大きかった回は そして最後はこの方。作者のけらえいこさんだ。反響が大きかった回について尋ねたところ、「声を出して笑った、と一番言われたのは……」と教えてくれたのは、母が自分の歩き方を街のウィンドーでチェックしていたら、中にいたサラリーマンがびっくりした回。母がゴールデンレトリーバーという犬種が出てこなくて、「リメンバーパールハーバーみたいな名前」と言った回=上=も反響が大きかったそうだ。 こうした反応から感じたのは、読者の人生や毎日に、この漫画が溶け込んでいることだという。 「例えば、冬、トイレを終えて、パンツ上げてインナーシャツ下げてインナーパンツ上げて……とやるときに、『あたしンちのお母さんと同じように、必ず現金書留のことを思い出す』と言ってくださる方がけっこういらして。必ず思い出してくださるのは、ご自身の体験と同等のインパクトなわけで、すごいな、と思ったりしました」(けらさん) はい。私も重ねパンツをしていると、いつも思い出します。そして最後に。けら先生にとって、この30年間とは? 「漫画を描くこと、笑ってもらう方法について、ずっと考え続けた30年でした。というか、それしかやってこなかった感も」 作者も読者も、みんなが人生を共有してきたタチバナ家の物語。その尊い日常が、30年と言わず、永遠に続きますように。 (ライター・福光恵) ※AERA 2024年6月17日号
福光恵