『ミッション:インポッシブル3』はトム・クルーズの“禊”映画? J・J・エイブラムスの手腕
シリーズの転機となった『ミッション:インポッシブル3』
一方で、本シリーズのオリジナルであるテレビドラマ『スパイ大作戦』(1966年~)への原点回帰も狙い、『1』『2』よりも「チーム戦」に重きを置いたストーリーを展開。各分野のプロたちが力を合わせて、不可能な任務に挑む姿はサスペンス映画としても一級品だ。キャラも魅力的で、おなじみのルーサー(ヴィング・レイムス)に加え、特に大きな功績となったのは、後々にどんどん重要なキャラになったベンジー(サイモン・ペッグ)の投入だろう。現場に出ることを憧れるデスクワークなスパイという、ユーモラスなキャラクター性は、緊迫感に満ちた本作の一服の清涼剤となっている。もちろんアクション的な見どころも満載で、トムクルさんが横に吹っ飛ぶシーンは明日から真似したくなること請け合いだ。また、本作は銃撃戦などのド派手な見せ場と並んで、トムクルさんが「走る」シーンに重きが置かれている。クワイマックスは、いわゆる“トムクル走り”が印象的に使われており、ここも真似したくなるポイントだろう。がむしゃらに走り回るトムクルさんの姿は、一種の“禊”というか、自業自得とはいえ、不惑の時を振り切ろうと頑張るようで、胸に迫るものがある。 本作は、トムクルさんの(『SLAM DUNK』の)流川ばりの個人プレーからチーム戦への移行、そしてアクションとサスペンスの配分。この2点が絶妙なのである。『1』はブライアン・デ・パルマ、『2』はジョン・ウー。どちらも精密・豪快なKOを狙うタイプの監督で、その手腕は見事に発揮されていた。しかし一方で、その個性が少しの歪さを担っていたのも否めない。それに対して『3』は、まさに最大公約数、誰もが同じくらい楽しめる映画になっている。 そして、もし『3』がこのバランスでなかったら? もしチーム戦への路線変更をしていなかったら? 最悪このシリーズは現在まで続いていなかったかもしれない。それくらい、本作はシリーズの転機となった作品である。J・Jの見事な手腕を楽しむ作品として、不惑の時を貼り抜けようと一生懸命なトムクルさんを楽しむ作品として、そしてシリーズの仕切り直しにして、現在まで続く『ミッション:インポッシブル』のひな型として……様々な観点から楽しめる、是非とも観てほしい1本である。そして観終わったあとは、安全に十分に配慮した後、横に吹っ飛ぶシーンを真似してほしい。いや、本当に些細なシーンなんですけど、ものすごく記憶に残る吹っ飛び方をするんですよ。
加藤よしき