御嶽山噴火災害から10年~気象庁の判断めぐる裁判は今も継続中~【調査情報デジタル】
噴火当時、火山噴火予知連絡会の会長を務めていた藤井敏嗣さんは、「警戒レベルという形で出すことで地方自治体、行政がものを考えなくなる。『こういう時はこうしなさい』と言ってしまうと、レベルが引き上げられるまで何もやらない恐れがある。地域の防災力が落ちるのではとの指摘もあった」と語った。 そして、藤井さんは、気象庁の監視態勢のもろさを厳しく指摘した。 「気象庁の中には長く火山の近くにいて火山のことを熟知している方もいる、かつてはいた。それは測候所というものが置かれている場合には、何十年もそこで火山を見続けデータを見てきた人がいたが、公務員の定員削減の波の中で、たたきあげの『熟練』みたいな方がいなくなっている」 あの日、登山者の多くが何の情報も知らないまま山頂を目指していた。気象庁の判断の是非は司法の場で争われることとなった。 遺族と負傷者32人が国などに総額3億7,600万円の損害賠償を求めて提訴した。2017年に提訴した原告側は、1日50回以上の火山性地震を観測し、さらに噴火の前兆である山体膨張の可能性が指摘されたのに気象庁が引き上げる義務を怠ったなどと主張。一方、国側は訴えの棄却を求めた。 裁判には、当時判断に関わった気象庁の担当者や火山の研究者などが証人として出廷。提訴から5年余りを経た2022年7月、長野地方裁判所松本支部で一審の判決が言い渡された。 山城司裁判長は「噴火2日前に『山体膨張の可能性を示すわずかな地殻変動の可能性』が指摘されたのに漫然とレベルを据え置いた判断は、著しく合理性を欠き違法である」として気象庁の過失を認めた。 だが、レベルを引き上げたとしても、その後の立ち入り規制が犠牲者の火口周辺への立ち入り前に確実に行われたと認めるのは困難などとして、因果関係は認めず、原告の訴えは棄却した。 判決を不服として原告側が控訴。東京高等裁判所で10月に判決が予定されている。 御嶽山の噴火を受けて気象庁は噴火警戒レベル1についての表現を「平常」から「活火山であることに留意」に変更した。さらに気象庁は噴火警戒レベルの柔軟の運用を目指し、異変を察知した場合、積極的な現地調査を進めている。