<映画評>妖艶な二階堂ふみに引き込まれる『私の男』
直木賞を受賞した桜庭一樹によるベストセラー小説『私の男』の映画化。奥尻島を襲った大地震による津波で家族を失った10歳の花(山田望叶、のちの二階堂ふみ)を、遠い親戚と名乗る男・腐野淳悟(浅野忠信)が引き取ることから、二人の複雑な愛の関係がスタートする。純愛。それを貫くために犯される罪。重い雰囲気の中、展開されるストーリーだが、そこにある純粋さ、素朴さには、どこか安心感が存在する。 この作品、圧巻なのは何と言っても、二階堂ふみの迫真の演技だ。少女時代の花役こそ、山田望叶が演じているものの、中学生時代から25歳までの花を、二階堂が一人で見事に演じきっている。保護者である淳吾との距離を年齢を重ねるごとに、距離を縮めていく流れは、色気をふんだんに醸し出している。初々しさ、かわいらしさ、素朴さ、そして妖艶さ。女性らしい部分を存分に感じさせてくれる。二階堂自身もこの作品で演じた花役を『運命の役』と話しているのも納得できる。
もちろん、浅野忠信も男としての“いやらしさ”がある。荒んだ生活、花との禁断の愛の形、周りが立ち入ることのできない世界を作り出す様子は、スクリーンの中とはいえ、緊張感が溢れている。流氷がたどり着くオホーツク海。それを臨む町。雪に覆われ、吐く息は白い、北の小さな町。ここの雰囲気は、人と人とのつながりをより強くさせるのかもしれない。 複雑な純愛を描いた作品だけに、その評価は分かれるだろう。一方で二階堂ふみへの評価は揺るがぬものになったのではないだろうか。素朴さ、かわいらしさ、妖艶さ。女性の魅力をいかんなく発揮し、その魅力は作品を見終わったあとでも、しばらくは頭から離れない。
■映画『私の男』 6月14日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー! (C)2014「私の男」製作委員会