愛する校歌を残していコウカ~西予市野村地域で校歌音源化プロジェクト始動
少子化の影響により、全国各地で小学校の統廃合が進む。閉校となれば、地域から失われる「宝」は数え切れないくらいあるだろう。校舎は寂れ、校庭の木々は荒れ、子どもたちの声は遠のく。在校生や卒業生の心のよりどころともいうべき「校歌」も、その一つだ。地域の歴史や特色、子どもたちの目指すべき姿が盛り込まれた古里を象徴する存在。その価値は計り知れない。 そんな「歌われなくなった校歌」の魅力を見つめ直し、音源化して後世に伝えようとする動きが、西予市野村地域で始まっている。郷土愛を深めるのが狙いだ。中心にいるのは、あの「きになる」定番CMソングを歌う1人の歌手だ。(山内拓郎) ■野村にほれ込んだ歌手 「ではみなさん、早速歌ってみましょう!!」。3月上旬の夜、西予市野村町野村の野村林業センターの一室で、あるワークショップが開かれていた。 住民約40人を前にギターを奏でているのは、地元在住の歌手、杉田篤史さん(45)。日立グループCMソング「この木なんの木」を歌うアカペラグループ「INSPi(インスピ)」のリーダーだ。グループ活動に加え、歌でコミュニケーションを円滑にするワークショップを全国で展開している。 被災地支援にも積極的で、2018年の西日本豪雨の後には、野村地域の子どもをはじめ住民とオリジナルソングを制作するなど親交を深めた。22年夏からは野村地域に住み始め、神奈川県との2拠点生活をしている。 そんな杉田さんが23年度から3カ年計画で仲間と手がけているのは、歌われなくなった校歌を音源化し後世に残す取り組みだ。名付けて「校歌の効果で 愛する地域を 残していこうか『校歌音源化プロジェクト』」。 対象は旧野村、渓筋、中筋、大和田、河成の5小学校の校歌。5校は15年4月に統合し、新・野村小として生まれ変わり、それぞれの校歌は影を潜めた。 ■きっかけは東日本大震災で被災した地域の校歌 発端は2022年4月、杉田さんが野村地域で開いたライブで披露した1曲の校歌だった。「全く関係のない県外の校歌なのに、引き込まれた。校歌が持つ力の素晴らしさに気付かされた」。市経済振興課長の岡田拓郎さん(50)が当時を振り返る。 歌ったのは福島県の浪江町立なみえ創成小学校の校歌だ。浪江町は11年の東日本大震災で被災。17年に帰還困難区域を除いて避難指示が解除され、地域に戻りたいという児童らの登校先として開校した。校歌は19年に住民らが作った。 杉田さんは浪江町で復興活動に関わる中で、住民から「ライブでこの校歌を歌い、全国に広めてほしい」と頼まれ、たびたび披露するようになったという。
愛媛新聞社