景気後退はまだ先? 予想外に持ちこたえた日銀短観
景気拡大の期間が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなったことが話題になりました。来年1月には「戦後最長」の更新が視野に入っていますが、日本銀行が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)から見る景気の先行きはどうでしょうか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
設備投資計画はプラス14.3%と高水準
日銀短観(12月調査)によると大企業・製造業の業況判断DIは+19となり、4回調査連続の低下を見込んでいた市場予想に反して9月調査から横ばいを維持しました。米国の成長モメンタムが鈍化する下、米中貿易戦争が沈静化せず中国経済が逆風にさらされたほか、欧州経済が減速するなど海外経済の風向きは良くありませんでしたが、国内経済は自然災害からの復旧もあって底堅く推移したようです。業種別では自動車、はん用機械、生産用機械、業務用機械など加工業種(+22→+21)が低下した反面、素材業種(+14→+15)が堅調でした。「先行き」の判断は+15へと4ポイント低下しましたが、それでも足元の業況が予想外に持ち堪えたことはポジティブです。米国との日米物品貿易協定(TAG)交渉において自動車への関税が少なくとも短期的に回避されたことなどから通商面の不透明感後退が効いた模様です。大企業のみならず、中堅企業(+15→+17)、中小企業(+14→+14)も底堅い結果でした。 また、大企業・非製造業の業況判断DIは+24へと2ポイント改善。業種別では建設、不動産、対個人サービス、対事業所サービス、情報サービスの好調さが目立ちました。小売、卸売も自然災害からの復旧が進む中で改善。中堅企業(+18→+17)、 中小企業(+10→+11)はともに前回調査から概ね横ばいでした。 その他では生産・営業用設備判断DI(全規模・全産業)が▲5とマイナス圏横ばいでした(マイナス圏は不足超)。企業の設備投資は、直近の2年程度こそ堅調に推移していますが、それまでの数年間に後ろ倒しされてきたこともあって不足感が生じています。それに符合するように設備投資計画(大企業・全産業)は前年比+14.3%と高水準を維持。これは設備投資が景気のドライバーとして健在であることを物語っています。また雇用人員判断DI(全規模・全産業)は▲35と不足感が強まりました。非製造業を中心に人手不足感が強く、足元の水準は1990年代前半と同程度です。バブル期ほどではありませんが、ここ数年の景気拡大と生産年齢人口の減少が相まって著しい人手不足感が生じています。 これら一連のデータは、自然災害の影響によって減速した日本経済が回復経路に帰していることを示唆したと言えます。最近は世界的に株価が下落しているほか、米国の長短金利差が逆転するなど景気の先行きを不安視する動きが目立ちますが、日銀短観をみる限り景気後退には相当な距離があると言って良いでしょう。
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