なぜ今ベーシックインカムなのか 第5回:導入めぐる世界の動き 同志社大学・山森亮教授
サッカーのブラジル・ワールドカップが終わって、もう早いものでもう一か月近くが経とうとしている。開催の準備にお金をかけるよりも、貧富の格差などの解決が先だと、ワールドカップに反対する人びとがいたことを記憶している人たちもいるかもしれない。 【写真】なぜ今ベーシックインカムなのか 第4回:「家」に縛られる女性たち
世界で唯一法制化しているブラジル
実はブラジルは世界で唯一、ベーシックインカムを法制化している。2003年以来政権の座にある労働者党は、軍事独裁政権下で自由を求めて闘っていた人たちが中心になって結成された党で、政権についてすぐ「市民ベーシックインカム法」を制定した。ただしこれはベーシックインカムの段階的導入をうたった法律で、必要な税制改革がなされたのちに給付にいたるとされている。現段階ではボウサ・ファミリアという、所得制限付きの児童手当がその第一段階として導入されているだけである。 法律の存在はブラジル国内の市民活動家を勇気づけ、その中には私財を投げうって、小さな村で自分たちで給付を始めた人たちもいる。筆者は2010年にその村を訪問してきた。予算の都合でそれだけで生活を送るに十分な額とまではいかないが、それでも筆者が出会った村びとたちは、子どもの将来のために投資したり、母親が中退していた中学校に行き直したり、と給付を受けて将来の夢を考えることができるようになったと語ってくれた。
導入の是非を国民投票にかけるスイス
ところかわってスイスは人口800万人ほどの比較的豊かな国である。そのスイスで一昨年から昨年にかけて、ベーシックインカムの導入を憲法の条文に書き込むよう求める署名活動が行われた。スイスでは、ある条項を憲法に盛り込むか否かをめぐって、一定期間内に約10万人の署名を集めることができれば、国民投票にかけることができる。そして昨年秋に約12万人の署名が集まり、スイス連邦議会に提出された。数年のうちにベーシックインカムが憲法に書き込まれるかどうかが国民投票にかけられる。 スイスにも貧困にあえぐ人びとはおり、たとえば一人で子どもを育てながら働こうとすると、日本ほどではないにしてもやはり大変だ。筆者も今年1月にスイスのバーゼルを訪れたときに、そうした状況の人びとにあった。