キューバ、貧しくても「配給制度」があれば飢え死にしない 問題は中身だ
旧市街の商店街、食料品店のカウンターの前に長い列ができていた。食料配給のために並ぶ人々だ。 1959年のキューバ革命後、国民は平等という社会主義理念の一環として始められた配給制度は今も続く。それぞれ決められた日に卵や肉、野菜、米といった基本的な食材が配給されるので、国民はどんなに貧しくても飢えて死ぬようなことはない。問題は、その量が極端に少ないことだ。 「米や砂糖は大丈夫なんだけど、卵とかミルクがなかなか手に入らないんだ」 案内してくれたオート三輪のドライバーがぼやいた。 金さえあれば、ある程度のものは自由市場で買えるのだが、国民の平均月収は20ドルそこそこ。割高な自由市場で購入できる余裕はなかなかない。こんな状況だから悪いことを思いつく輩も出てくるわけで、数年前に卵を横流ししていたグループが逮捕される事件があった。市民に配給されるはずの卵を10か月の間になんと8百万個も自由市場に横流して利益を得ていたという。 これほどの規模ではないが、配給に関わる人々が扱う食品をくすねて横流することは頻繁に起こるらしい。政府も近年こういう犯罪に対しての取り締まりを強化するようになった。驚くべきことに、卵横流しグループに下された判決は懲役5年から15年という重いもの。違法に牛を殺して食材にしたりすると、人殺しよりも重罪になるというジョークもあるほどだ。 「たかが卵、されど卵」が、この国の食料事情なのだ。 (文・写真:高橋邦典 2017年2月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<変貌する社会主義国キューバ>- 高橋邦典 第52回」の一部を抜粋したものです。