観終わったら“シャマらん”気分になるのは間違いないです【みうらじゅんの映画チラシ放談】『ザ・ウォッチャーズ』『ジョン・レノン 失われた週末』
『ジョン・レノン 失われた週末』
――2枚目のチラシは、ジョン・レノンが妻のオノ・ヨーコと別居していた時代を描いたドキュメンタリー『ジョン・レノン 失われた週末』です。 みうら ジョン&ヨーコを語る上でかなり重要な案件ですからねぇ。 ――オノ・ヨーコの肝いりで若い愛人をあてがわれたみたいな、変な伝わり方をしている話ですよね。 みうら そこ、やっぱ真相は知りたいですよね。僕が小学校5年生のときにビートルズは解散したんです。 僕らの世代は『レット・イット・ビー』の映画は公開されて観てるんですけど、リアルタイムはソロ活動でしてね。ジョンだとやっぱ『イマジン』のイメージが強いんです。 ジョンさんはオノ・ヨーコさんと知り合って、どんどん変わっていくじゃないですか。“ラブ&ピース”って言葉を知ったのもふたりからです。 オノ・ヨーコさんっていうミューズに会ってどんどん変わっていく様を、まるで自分ごとのように見てたというか、「僕にもヨーコさんのようなミューズがいれば変われるのに!」って他力本願で思ったりして(笑)。 後に僕、『アイデン&ティティ』って漫画を描いたんですけど、そのアイデンとティティは当然、ジョン&ヨーコがモデルでした。 アンデンティティっていうのはひとりで形成するものじゃなく、ふたりの愛が合わさったときに初めてアイデンティティが確立するんだっていう。そんなテーマの漫画でした。 そんなふたりが“失われた週末”でしょ? 当時は僕、よく分かってませんでしたから、てっきり週末だけかとか思ってましたけど、そういうことじゃないですよね。もっと長いでしょ(笑)。 ――このチラシだと18カ月って書いてありますね。 みうら その時期にジョンさんが出したアルバムが『ロックンロール』。カバーアルバムでした。当時買いましたけど、原点回帰の意味もあったんでしょうね。その中の “ウェンザナイ”って曲はヒットしましたよね。 ――『スタンド・バイ・ミー』ですよね。 みうら そうそう(笑)。 ヨーコさんは当時、「私をミューズと思って、頼りきっていてばかりではいけない」ってジョンさんに修行の旅を勧めたんですかね? その旅にメイ・パンっていう女性を同行させたのは、彼女もまた東洋人であったっていうことでしょうか? 何だかそこに意味があるような気がしますが。 ――確かに。 みうら ヨーコさんから東洋思想を学んだジョンさんは『イマジン』を作ります。僕はその歌詞がすぐに般若心経だと思いました。 歌詞のテーマは「そもそもはない」でしょ? つまりは般若心経でいうところの“空”です。 そしてすべてはないと悟ったジョンさんに、ヨーコさんは次の段階として失われてない週末を与えた。違いますかね? ――ヨーコさん、むちゃくちゃ教えてくれますね! みうら でもジョンさんは、ヨーコさんをミューズだと思ったあまりに、実のお母さんだと勘違いした? よく夫が奥さんに「私はあなたのお母さんじゃないから!」って叱られることあるじゃないですか(笑)。よく考えなさいって、それで旅に出したとか? ――もはや聖書か神話みたいですね。 みうら (笑)。当時、あまり情報もなくて、ヨーコさんが愛人まで付けてジョンさんを送り出したっていうことだけがクローズアップされてましたから、よく分かりませんでしたけどね。 たぶんこのドキュメンタリーではその真相が分かるようになってるんじゃないですかね? ――それは確認しにいかないと。 みうら でしょ? それかもっと驚くべき事情があったのかもですよ。 取材・文:村山章 (C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED (C)2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved 『ザ・ウォッチャーズ』 6月21日(金)公開 『ジョン・レノン 失われた週末』 上映中 ■プロフィールみうらじゅん 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。