健闘?失敗?G1初挑戦の菜七子はなぜ敗れたのか
Dr・コパは健闘を称える
しかし、舞い上がることはなかった。レース運びは冷静だった。ひとつひとつ課題をクリアしていった。コパノキッキングは、イレ込みやすく、パドックから返し馬にかけてがひとつのポイントとみられていたが、馬場入り後は、パートナーの頭を優しくなでるなどコンタクトを取ってもいた。 スタートを決め、ポジションを下げていったのは作戦通りだった。ただ、一瞬だけ向こう正面でコパノキッキングが行きたがったのは誤算だったか。それでもロスを最小限に抑えるあたりが成長の証。 風水で有名な“Dr・コパ”こと小林祥晃オーナーも菜七子騎手の騎乗に納得していた。 「きょうは1200メートルの競馬をしようと言っていた。自然に下げていったのはシミュレーション通り。仕上がりすぎてて少し掛かっちゃったのが残念だが、大外から追い込んでくるアイデアは悪くなかった。この感じなら距離は大丈夫。ナナちゃんは距離を心配してなかったみたいだね」 オーナーはレース前に神社巡りをして身を清め、できる限りの縁起担ぎはすべて行い、万全の態勢で当日を迎えていた。パドックで緊張気味だった菜七子騎手に優しく話しかけていた村山明調教師も、5着という内容に不満はなかった。 「馬は絶好調でした。パドックでは“いつも通りに乗ればいいからね”とアドバイスしましたが、うまく馬の力を引き出してくれたし、馬もよく走ったと思います」 今回の騎乗依頼に際しては藤田騎手の馬に対するあたりの柔らかさを高評価。小林オーナーは「不器用なキッキングにはナナちゃんは合う」と話していたが、実際に両者は息の合ったところをみせていた。 ただ、惜しまれるのはやはり経験値だ。勝利騎手の武豊はフェブラリーステークスがG1になって以降、23回総てに騎乗。今回でこのレース5勝目となった。7連勝としたインティとも5回連続でコンビを組んでいる。その点、菜七子騎手とコパノキッキングは今回が初コンビ。 小林オーナーも「不安なカップル。フレッシュなカップル」と話していたが、馬込みに入れる競馬を経験していれば、戦法に幅が出てまた違った結果が出ていたかもしれない。 「あんなに後ろから行かなくても」という声はなくもない。それでも、ライバル陣営もその騎乗ぶりを評価。3着に入ったユラノトの松田国英調教師は、「少し掛かった面はありましたが、あそこから追い込んでくるのだから大したもの。もう少し流れていたら際どかったかも。重圧もあったことでしょうし、それを考えると立派」と評価している。 レース後、小林オーナーに挨拶した藤田騎手は感極まりつつも涙をグッと我慢。 「末脚を温存しようと思ったが、少し(ハミを)噛むところがあった」と話し、深々と頭を下げた。しかし、オーナーは「ホメようと思っていたんですよ。次はどこに行く?かしわ記念かな。いや、アメリカのブリーダーズカップも悪くないか」と、米国遠征プランまでも披露して、今後のG1継続騎乗も約束した。 菜七子フィーバーに沸いた平成最後のフェブラリーステークスは、前年比で売り上げ117.2%、入場者数121.8%と大盛況だった。 陣営はレース後、都内で慰労を兼ねた打ち上げを開き、次走へ向け、今回の経験を踏まえて作戦を練った。 当面の目標は5月6日(コパさんの誕生日の翌日)、船橋の統一G1かしわ記念(ダート1600メートル)が有力。その先には11月、北米競馬の最高峰ブリーダーズカップも視野に入ってくる。ブリーダーズカップで女性騎手が勝てば、3700勝ジョッキーのジュリー・クローン、2014年に勝ったロージー・ナプラヴニク以来、史上3人目の快挙となる。5着と敗れたが、菜七子の夢が広がるG1初陣となった。 (文責・山本智行/スポーツライター)