花咲徳栄を取材して/下 支える部員も夏へ闘志 思い胸に、選手見守る /埼玉
<センバツ高校野球> 「こんにちは」。加須市の花咲徳栄グラウンドを訪れると、女子マネジャー12人の笑顔に出迎えられる。道具の調達、来客対応を任され、グラウンド周辺を走り回る。2月のある日に訪れると、グラウンド横のマネジャー部屋で、手縫いのお守りづくりに励んでいた。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 選手について語り出すと止まらない。「選手の成長を見るとうれしいんです」と、とびきりの笑顔で話すのは林愛美さん(2年)。花咲徳栄のマネジャーに憧れて入学し、片道1時間半かけて通学。野球に関わる仕事に就くことが夢だという。「あの子は道具をすごく大切にしていて……」。厳しい練習で破れた選手の足袋も自分で縫ったという礒瑞姫(みずき)さん(同)は、一人一人の特徴を事細かに教えてくれた。 3月2日に臨時休校が始まり、女子マネジャーは練習から姿を消した。「必死に練習してきた分、悔しさと悲しみは大きいけど、いつかどこかで晴れる日がくることを願っています」。中止決定翌日の12日、チーフマネジャーの大熊幸恵さん(同)から受け取ったLINEのメッセージに心が痛んだ。間近で支えてきたマネジャーたちも、気持ちは選手と一緒だ。 一方、3学年で約130人、1~2年生だけでも90人近い男子部員も、大半は普段の練習でメンバーを手伝う役割を担う。 監督付マネジャーの斎藤啓太さん(同)は腰にけがをしていた1年冬に就任を打診された。今では選手への指示の伝達や、監督の秘書のような役割をこなす。「人にものを言うことが苦手」といい、昨年7月にはストレス性胃腸炎になったが、今では「選手に『ありがとう』と言われるのがやりがい」と話す。 学生コーチの武井雄矢さん(同)は主力に次ぐ「Bチーム」で主将を任されたが、「ここにいる違う意味があるのでは」と思い、昨年末、コーチに志願した。グラウンドではノックを打ち、打撃面でも選手に助言する。将来は高校の体育教師が夢だ。 田中孝陽(こうよう)さん(同)は1月からプレーイングコーチを任された。昨秋の県大会で背番号をもらったが、その後はメンバーから外れた。コーチの打診を受け「後悔して高校野球を終わりたくなかった」と切り替え、積極的な声出しで士気を高める。 14日に話を聞くと、それぞれ違った角度で事態を受け止めていた。記録員としてベンチ入り予定だった斎藤さんは「32校しか経験できないこと。これを糧に頑張りたい」。田中さんは「頑張って背番号をつかみ取った人はつらいだろうなと思う」と、選手を思いやった。2月29日以降に主力選手が暮らす寮に入寮し、寝食をともにしてサポートに徹した武井さんは「練習以外でも選手と話せる大切な時間ができた。中止はマイナスだけではないと思う」と話した。 3人の口からは、主力選手への厳しい言葉が出ることもあった。夏へ闘志を燃やしているのは選手だけではない。限られた高校生活を無駄にせず、一つでも多く吸収しようとする部員らの姿勢にエールを送りたい。【平本絢子】