「監督やコーチが出す雰囲気がものすごく大事」元中日・荒木雅博氏が語る盗塁の"極意"とは【インタビュー】
5月14日に『プロフェッショナル走塁解体新書』(カンゼン)を上梓した元中日ドラゴンズの荒木雅博氏。 自身が現役時代に実践し、コーチとして伝えてきた技術を、写真や動画を交えながら細かく解説した一冊になっている。『ベースボールチャンネル』では、出版を記念して、荒木氏への特別インタビューを実施。現役時代の恩師のことから、気になる古巣の教え子のことなど、走塁をテーマに語ってもらった。
長嶋清幸氏に教わった投手の見方 ――現役時代、通算378個の盗塁を決めてきた荒木さんですが、走塁面で影響を受けたコーチはいますか。 荒木 盗塁に関しては、長嶋清幸さんですね(中日では2004年から2006年、2014年から2018年と、2期にわたってコーチ)。ピッチャーの見方を学びました。一緒に一塁側から撮影しているピッチャーの映像を見て、クセが出やすい場所を教えてくれたのが長嶋さんです。それまではクセを見て走るという視点がほとんどなかったので、378個もの盗塁ができたのは長嶋さんのおかげです。 ――調べてみると、2003年までは16盗塁が最高だったものが、2004年から39個、42個、30個と一気に増えていますね。 荒木 長嶋さんに出会う前は、6回以降で3点負けているような場面ではスタートを切っていませんでした。仮にアウトになったときに、どうしてもベンチの空気が重たくなる。でも、長嶋さんは、「ピッチャーのクセがわかっていれば、負けている場面でもどんどんスタートを切っていい」と背中を押してくれたんです。 ――長嶋さんがもっとも長くプレーした広島(1980~1990年)は積極的に走るイメージが強いですが、そのマインドや技術が長嶋さんに受け継がれていたのでしょうか。 荒木 それもあると思います。盗塁は、監督やコーチが出す雰囲気がものすごく大事で、負けている場面で失敗したときに、「何をやってんだよ」という視線を感じると、「じゃあ、もう走らないほうがいいわ」となりやすい。指導者によって、盗塁死を嫌がる人と、アウトになってもいいから、「盗塁で守備側にプレッシャーをかけてくれ」と考える人で、大きく2つにわかれます。 ―――当然、采配をふるう監督によって、チームの盗塁企図数も変わってくると。 荒木 もちろんです。あとは、一塁コーチですね。今年、DeNAのチーム盗塁数が増えていて、セ・リーグで1位のはずです※編集部注:2024年6月16日時点で広島とタイ。ここ数年、DeNAは「走らない」というイメージがありましたが(ここ5年の盗塁企図数はリーグワーストが4度)、今季から石井琢朗さんが一塁ベースコーチに入っています。推測ではありますが、石井さんによって、盗塁への意識改革が行われていると思います。 ▼荒木雅博(あらき・まさひろ) 1977年9月13日生まれ、熊本県出身。熊本工業高から1995年のドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。ゴールデングラブ賞6回、盗塁王1回(通算378盗塁)のタイトル実績が示すとおり、抜群の脚力と安定した守備で2000年代の中日黄金期を中心選手として支えた。また2004年からは3季連続でベストナインに選出。2017年に2000本安打を達成。翌年に現役を引退した。同年、二軍の内野守備走塁コーチに就任し、2020年から2023年までは一軍の内野守備走塁コーチを務めた。2024年は野球解説者・評論家として活動している。
ベースボールチャンネル編集部