『Zガンダム』で初登場の「強化人間」はなぜいつまで経っても普及しないのか
強化人間になるにも素質が必要…?
さて、フル・フロンタルや鉄仮面の能力は、ニュータイプである「バナージ・リンクス」や「シーブック・アノー」と大差なく、身体能力では上回っています。 そうであるなら、MSパイロットになる者は全員強化すれば、それだけで自陣営の戦力が大幅に増強されるようにも思えます。宇宙世紀の戦闘において「戦いは数」ではないことは、ニュータイプ用兵器を搭載したMSが多数の敵をも圧倒することで示唆され、つまりパイロットの能力は戦争の勝敗を左右するものです。 しかしながら、そのようにはなっていません。 強化人間を量産しない理由はいくつか考えられます。ひとつ目は「素質」です。「ガンダムフロント東京」で上映された映像作品『機動戦士ガンダムUC One of Seventy Two』には、「ニュータイプ能力の素養を見せた」ことで、「ティターンズ」に誘拐された強化人間「リタ」が登場します。 つまり「全ての人類がニュータイプになれるわけではなく、元々あるニュータイプ能力を引き出しているのが強化人間なので、素質がなければ強化人間にもなれない」ということも考えられるのです。フロンタルや鉄仮面は、強化する前から鋼メンタルで、ニュータイプの素質もあったという考えです。 また、ニュータイプ能力を引き出すための、記憶の捏造や薬物の投与などといった手段も、強化人間を量産しにくい理由なのでしょう。ニュータイプは「感応性」が非常に高いことで、相手の気配や思考を読むことなどを可能としています。そうした感受性に優れた少年少女を強化人間にした場合、「優しくされたから寝返る」「相手に共感して戦闘不能」といったようなことが起こり得ます。実際、ロザミアもフォウも敵対組織の「カミーユ・ビダン」と共感して、自らの所属組織であるティターンズへの敵対行動を取っています。 強化人間は製造コストも高いでしょうし、その能力を維持するために医療的措置を継続する必要があるなど、手間もかかることでしょう。それが寝返ったなら、強化人間を作った組織側は一般兵士による裏切りの何十倍もダメージを受けることになります。 そうしたことから「寝返る心配がない人物」である組織の指導者や、戦争に負けそうで一発逆転を狙いたい陣営くらいしか、強化人間を作らなくなっていったのでしょう。 この考察が仮に正しかったとした場合、すなわちニュータイプどころか強化人間になれるかどうかも、結局は持って生まれた素質に左右されるとした場合は、シャアが生涯やろうとしていた「全人類を宇宙に上げることで、ニュータイプへの覚醒を促す」ことは、無意味となってしまうように思えます。ただ、宇宙世紀の年代が進んでも登場人物のニュータイプ率は大差ないことを考えるなら、やはり「選ばれた者だけがなれる」のがニュータイプなのだと結論付けられるかもしれません。
安藤昌季