【ラグビー】後悔しないために。江木畠悠加[立命館大/PR]
昨季は辛辣をなめた。 卒業後にリーグワンでも上位のクラブに進んだ実力者をBKに4人も抱えながら、関西大学リーグで6位に終わった。 再起をかける立命館大は、今季からOBの小寺亮太氏をヘッドコーチ(HC)に招聘。新指揮官はFWのテコ入れを図った。 「良いBKがいても、その前のところで勝てずにプレッシャーがかかるとBKもしんどくなります。自分たちの良い状態を作り出すためにはスクラムが一番大事。練習の時間配分も考え直し、BKは面白くないかもしれませんがユニット(FWはセットプレー)にはかなりの時間を割いています」 春にはその成果が随所に見られた。関西春季トーナメントの順位決定戦では、関西大を前半途中からスクラムでドミネート。複数回ペナルティを奪い、勝利に繋げた。 夏合宿前の時点で、そのスクラムでの評価を上げていたのが左PRの江木畠悠加(えぎはた・はるか)だ。 小寺HCはこう評価していた。 「バックロー出身だけど我慢できる選手だから期待してると中林さん(正一/チームコーディネーター)が話していて。僕が来た時はスクラムがすごく弱くて大丈夫かと思っていたのですが、だんだんと良くなってきました。よう練習してくれています」 江木畠がPRに転向したのは2年生のシーズン終了後。中林チームコーディネーターに提案された。 攻守に渡る接点の強さを見せ、FLを主戦場に1年時から先発出場の機会を掴んでいた。2年時はレギュラーとして全試合に先発している。それでも、転向の決断を下した。 「社会人になってもラグビーを続けたいという思いがありました。一番は、後悔したくなかったんです。結果的にダメだったとしても、やっておけばよかったと思って大学生活を終えるのは嫌でした」 しかし、最終節の関西大戦で右足の腓骨を折ってから苦労を重ねた。 リハビリを終えた3年時の夏から本格的にPRにチャレンジするも、「全然上手くいきませんでした」。思い通りの成長曲線を描けず秋が深まると、腓骨を固定していたボルト付近で炎症が起きた。抜釘の手術をおこない、失意のまま3年時を終えた。 「全然やったことのないポジションで、毎回良くしようと思って取り組んできましたが、うまく成長できませんでした。現在進行形で一番苦労しているのはスクラムです」 グラウンドに立てるようになった年明け以降、もう一度、決意を新たにした。 4年生が今季掲げたスローガンは『ONE』。 「一つひとつのことにこだわってやってきました」 まずは体重を5キロほど増やし、三桁に乗せる。チーム練習でのスクラム練に加え、自主練にも励んだ。FWの仲間たちと一緒になり、スクラムの姿勢を磨き、タイヤ押しでさらに体を追い込んだ。 「3月くらいまではまったくスクラムを組めなくて、落ちまくりでした。でもコーチに教えてもらいながら、同期や後輩が毎日練習に付き合ってくれました。良くなっている感覚を少しずつ得られています」 しかし、立命館大はここまで苦戦を強いられている。関西リーグ開幕から近大、関西学院大に連敗。江木畠自身もメンバーに選ばれなかった。同じくFLからの転向組である新人の高橋凛之介に、その座を譲っていた。 大学選手権出場に向けては後がない立命館大は、10月13日に天理大と対戦する。 メンバー表の一番上に、江木畠の名前はあった。先発の4年生は共同主将の本郷正人と江木畠の2人だけである。 「自分は言葉で引っ張るタイプでもないし、転向してから余裕がなくて本郷に任せきりでした。でもスクラムで戦えれば自信を持って試合に臨めると思っています。これまでの立命館はスクラムが弱いというイメージだったと思いますが、今年はそれを見返したい。スクラムでチームを引っ張っていきたいです」 たぎる思いをスクラムに乗せる。 (文:明石尚之)