「山の神が怒るから」入れなかったトンネル工事 土木職で働く女性求人ほぼない時代、「見えない壁」に挑み続けた公務員
長野県土木系技術職で女性初の部長級経験 環境部次長の高倉明子さん、退職へ
県の土木系技術職員で女性として初めて部長級を経験した環境部次長、高倉明子さん(60)が今月末、退職する。性差が理由の処遇に悩みながらも歩み、技術系の女性県職員でつくる「建設女性の会」会長として相談しやすい環境づくりにも携わった。「広い視野を持って進んで」と後進の活躍に期待する。
実家が建設業だった影響もあり土木職志望
須坂市出身。実家が建設業を営み、親が施工した道路や橋を身近に見て育った。市内の須坂高校を卒業後、大阪工業大(大阪市)に進み、地質学を研究した。在学中の1985(昭和60)年に長野市で地附山地滑り災害が発生。老人ホームの入所者26人が亡くなり、「対策に携わりたい」との思いから県の土木職を志望した。
初任地で女性は自分だけ トイレない山奥の現場で水分を我慢したことも
86年に男女雇用機会均等法が施行されたが、ゼネコンには現場で働く女性の求人はほとんどない時代。初任地の千曲川流域下水道建設事務所(長野市)の女性職員は自分だけだったという。 トンネル工事は「山の神が怒る」との理由で現場に入れないことがあった。女性用トイレがない山奥で水分摂取を我慢したことも。「女性だから」と心配され、遠方の現場を任せてもらえないなど「見えない壁」に何度もぶつかった。
自発的に政策立案、管理職は楽しい
都市計画の部署が長く、都市・まちづくり課長などを経て22年に部長級に。昨年4月に環境部次長に就き、温室効果ガスの排出削減を目指す「県ゼロカーボン戦略」のロードマップ(計画表)作りなどに関わった。「全体を見て自発的に施策を立案できる」と管理職の楽しさを語る。 建設女性の会の会長には昨年4月就任。会員や業界の女性部会との意見交換会などを通して交流を促した。相談相手がいなかった自身の若手時代を振り返り、「何かあった時に話ができ、離職を選択しない職場になればいい」と願う。