「ネタニヤフを説教する」「バイデンの言い分は間違い」突如起きた非難合戦の背景、ネタニヤフはバイデンを“生贄”に生き残り図るか
ガザ戦争は5カ月を過ぎたが、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘はイスラム教の聖なるラマダン(断食月)に入っても終息の見通しはない。こうした中、米国のバイデン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が公然と非難合戦を展開、関係が極度に悪化している。背景にはネタニヤフ氏の「バイデンを“生贄”に生き残りを図る」という政治的ギャンブルがある。
不首尾に終わった「ラマダン停戦」
イスラム世界は3月11日からラマダンに入った。「1カ月にわたって日の出から日の入りまで日中の飲食を断つ」というイスラム教徒の戒律が求められる月だ。信仰心が極度に高まり、イスラム教徒への迫害や攻撃に過激に反応する人々が増え、ジハード(聖戦)が叫ばれる時期でもある。 「ラマダン停戦」が期待されたのも、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が続けば、ユダヤ人に対する憎悪が深まり、より収拾がつかなくなることが懸念されたためだ。しかし、今月初めまでカイロで行われた停戦交渉はイスラエルとハマスの主張が対立、不首尾に終わった。 イスラエルと仲介役の米国、カタール、エジプトは停戦条件で基本合意していたが、ハマスが最後まで抵抗してうまくいかなかった。基本合意は6週間の停戦と40人の人質解放、数百人のパレスチナ囚人の釈放が大枠だった。しかし、ハマス側が無期限の停戦にこだわり、イスラエルが人質の生存者リストをハマス側に要求したこともあって協議はまとまらなかった。 ハマスが拘束している人質は134人とされるが、イスラエル軍の空爆などで死亡した人質もおり、実際に生存している人質は約100人とみられている。停戦交渉中も戦闘は続き、ガザ側の住民らの死者は現在、3万1000人以上に達している。今後、150万人が避難する南部ラファにイスラエル軍が侵攻すれば、パレスチナ人の犠牲者は一気に増えるだろう。
外交配慮なき応酬
イスラエル軍がすでにラファ侵攻作戦を策定したのに対し、米国は住民の安全確保が保証されない限り、侵攻に反対する考えをネタニヤフ政権に再三伝えている。しかし、イスラエル側から住民の避難計画の提示はまだされていない。このため停戦の必要性を表明してきたバイデン大統領のネタニヤフ首相に対する苛立ちは募る一方だ。 大統領は9日の米テレビとのインタビューで「ラファ侵攻はレッドライン(超えてはならない一線)だ」と警告。ネタニヤフ首相は「自国を救うよりも傷つけ、大きな間違いを犯している」と強く批判した。大統領が同盟国の指導者を公然と謗るのは極めて異例だが、インタビュー前にも「ネタニヤフを説教する」と漏らすなど耳を貸さない首相に我慢がならない様子を見せていた。 この大統領の批判にネタニヤフ首相は猛反発した。首相は米政治ニュース専門サイト「ポリティコ」などと相次いで会見。「自分のガザ戦争のやり方は大多数の国民が支持しており、国益に打撃を与えていない。バイデン氏の言い分は間違いだ。イスラエルにとってのレッドラインはハマスの完全壊滅だ」と反撃した。双方とも相手への外交的配慮をかなぐり捨てたような応酬だ。 バイデン政権は、「ガザの住民50万人が飢餓に直面している」(国連)のはイスラエル軍がガザへの支援物資搬入を規制しているためだとして、食料や水などを空からガザに投下する作戦を開始。海上からも物資を届けるため、ガザの海岸に臨時ふ頭を建設する計画に着手した。首相は米国のこうした一連の活動を不快と感じているとされ、2人の関係はさらにこじれている。