なぜ米軍はシリアに空爆拡大? 「イスラム国」の特殊性 /高橋和夫・放送大学教授
地上部隊はどこにいるのか?
空爆によってイスラム国の支配地域の拡大の阻止は可能でも、その壊滅はむずかしい。そう多くの専門家は見ています。それには陸上部隊の投入が必要です。しかしながら欧米には、陸上部隊の投入に積極的な国はありません。必要な陸上部隊は、どこにいるのでしょうか。 アメリカはイラクではイラク中央政府軍と北部のクルド人の部隊に期待しています。そしてシリアでは反アサド政権で同時にイスラム過激派ではない自由シリア軍という勢力を強化する意向です。 しかしながら、それぞれに問題があります。イラクの中央政府軍は、6月にイスラム国の攻勢を受けて戦わずに潰走しました。現在イスラム国が使っている大型兵器は、この時にイラク中央政府軍が残していったものです。この軍隊の立て直しは難しそうです。次にクルド人の部隊ですが、余りに強くなると今以上にクルド人がイラクから独立しようとの動きを強めるかも知れません。そして自由シリア軍ですが、その中にイスラム過激派が紛れ込んでいるのではと懸念されます。また、この軍隊がイスラム国を打ち破り、しかもアサド政権を倒すほど強くするのは至難の技でしょう。
いずれにしろ長い時間を要するのは間違いありません。そもそもアメリカのアサド政権を倒すという政策とイスラム国を叩くという作戦の間には整合性がありません。シリアのイスラム国に対する爆撃は、アサド政権の敵に対する打撃でもあったわけです。アサド政権か、イスラム国か、まずアメリカは本当の敵が誰なのかを決める必要がありそうです。 (高橋和夫・放送大学教授)