65歳以上は勝てないと引退するしかない「将棋界」...それでも戦い続ける永世名人の「勝負の哲学」
人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか?どんな老後の過ごし方が幸せなのか?医療はどこまで発展しているのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、還暦以降の人生の楽しさや儚さについてお届けする。 『還暦から始まる』連載第15回 『たった1つの遺伝子をノックアウトしただけで「ES細胞が無力に」...山中伸弥が生涯をかけて追い続ける遺伝子との「偶然の出会い」』より続く
成績次第の過酷な世界
谷川じつは現役で私が一番の先輩棋士になることが決まりました。現役最年長だった青野照市九段が2023年度順位戦でC級2組から降級になって引退が決定したためです。歳上の棋士はまだ何人かいらっしゃいますけれども、現役の期間でいうと1976年12月に棋士になって47年の私が一番になるんです。 山中そうなんですか。 谷川この歳になると、何歳まで現役で続けるかというのは常に考えますね。まだまだ続けたいという気持ちがあって、65歳までは必ず続けると思うんですけど、それ以降は成績次第です。 じつは私もB級1組に落ちた次の年に負けが先行して降級しそうになったことがありました。当時まだ53歳で、B級1組から一年でB級2組に落ちても引退は考えられませんでした。B級2組に落ちたのは2020年ですが、この順位戦の地位をずっと保ち続けていれば、65歳を過ぎても続けたいと思っています。
どのクラスまで指すか…
山中65歳というのは、何か基準があるんですか。 谷川一応規定があるんです。少し複雑ですけれど、順位戦には名人戦挑戦者を決めるA級からC級2組まで5つのクラスがあります。順位戦では毎年同じクラスの棋士たちと対局があり、成績が悪いと、クラスが落ちていきます。順位戦を指さずにフリークラスに転出するという選択肢もあるんですが、その選択肢を選ぶと、65歳で自動的に引退になります。ちなみにB級2組で降級点を2回取ると、C級1組、さらに同組で降級点を2回取るとC級2組に落ち、さらにC級2組で3回降級点を取るとフリークラスに落ちますが、この時点で65歳を超えていると引退になります。 ですから負け続けてもいいということであれば、あと7、8年は最低でもできます。ただ、順位戦は持ち時間が長くて年間十局のリーグ戦で昇級・降級が決まるので、そういう意味では体力的にも精神的にも一番厳しい。 それと、私の場合は「永世名人」という立場があります。順位戦で下のクラスまで行って現役を続けることがいいのかどうか。たとえば、同じ永世名人でも大山康晴十五世名人は「A級から落ちたら引退する」と話しておられました。中原誠十六世名人はA級から落ちて、B級1組で2年指されて、その後フリークラスに転出されました。 私自身は永世名人ではあっても、残念ながら実績において大山先生、中原先生には遠く及びません。とはいえ、永世名人ではあるので、順位戦でどのクラスまで指すことが許されるのかという気持ちはありますね。 山中加藤一二三先生が引退されたときは、確かC級でしたよね。 谷川はい、加藤先生は一番下のC級2組まで指されて、降級点が3回になったことで規定によって引退されました。