人気上昇「一時払い終身保険」の罠 予定利率1%でも実質0.3%台
『この保険、解約してもいいですか?』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、販売が急増している「一時払い終身保険」の損得を考察する。 【関連画像】「ニッセイ一時払終身保険」の契約例。65歳男性、死亡保険金1000万円。 「貯蓄性商品として報じないほうがいいのではないか?」 先月、生命保険会社の「一時払い終身保険」の販売増を伝える各種媒体のニュース(*1)に接して感じた。販売額が2倍に迫ったとの報道もある。 終身保険は、一生涯の死亡保障を確保できる商品で、相続対策に適している(*2)。 しかし、相続対策を目的に終身保険に入る人はそれほど多くない。老後資金を蓄えるために入る人のほうが多数派だろう。「銀行預金ではお金が増えない。とはいえ、投資は怖い」と感じている人たちに、「死亡保障があるうえに、一定期間を経過したら、預金よりお金が増えます」などと貯蓄性を語り、販売される事例が多い。 どうして終身保険に入ると「お金が増える」のか? *1.日経電子版「一時払い終身保険、販売額2倍に 新NISAは逆風」(2024年2月19日)、産経ニュース「予定利率上昇で一時払い終身保険の加入増加 『金利のある世界』近づき売れる貯蓄性商品」(2024年2月27日)参照*2.終身保険は、相続税法上、死亡保険金が一定額まで非課税になるといったメリットがあり、相続対策には有効である
終身保険では、加入者が支払った保険料の相当部分を、その加入者への保険金支払いに備えて、ためておく。そして解約時には、たまったお金を加入者に払い戻す。この仕組みを加入者から見れば、定期預金口座などにお金を置いておくのと似ている。だから、貯蓄性商品として検討されるというわけだ。 ●人が一生涯に死ぬ確率は100%だから なぜ、このような仕組みになっているかというと、終身保険では、中途解約や保険会社の破綻がない場合、保険料の支払いがほぼ100%の確率で発生するからだ、と考えたらわかりやすいかもしれない(一生涯に人が死ぬ確率は100%だ)。 終身保険の保険料は、加入者の年齢はもちろん、金利の影響を受ける。金利が高い場合、保険会社は、保険料を決める際に用いる「予定利率」を高く設定する。そうすると、保険料は安くなる。会社側からすると、お金を増やしやすい環境であれば、同じ保障を提供する場合でも、少ない保険料で済むという理屈だ。 このところ「一時払い終身保険」の契約が増えているのも、市場金利が上昇し、保険料が安くなったためだ。「一時払い終身保険」とは、契約時に保険料を一括して払い込む終身保険である。 では、どのくらい保険料が安くなったというのか? 日本生命(*)が販売する「ニッセイ一時払終身保険」の商品ページを見てみよう。「2024年1月1日以降、保険料がお安くなりました」という説明の下に、保険金額1000万円の終身保険に、60歳男性が加入する例が載っている。 * 正式な社名は、日本生命保険(相互会社) ●日本生命は8.3%を上回る「値下げ」 従前の予定利率0.6%では、一時払いの保険料が933万6900円だったのが、予定利率1%になったのに伴い、855万4400円になっている。実に8.3%を上回る「値下げ」である。これだけ値下げされて、保障内容が変わらないのなら「お金の運用手段として悪くない」と考える人もいるだろう。そんな事情で契約が増えていると見られる。 それでも筆者は、貯蓄・運用目的で「一時払い終身保険」に加入するのはやめたほうがいい、と思う。理由は以下の3点だ。 【お勧めしない理由 1】 実際の利回りは、予定利率を下回る 「予定利率が1%になりました」と販売員に説明されても、鵜呑み(うのみ)にしてはいけない。例えば、1000万円の保険料を一括で払ったとして、1年後に10万円の利息がつくわけではないのだ。 なぜなら、1000万円が丸々、運用に回るわけではないからだ。1%で運用されるのは、保険料から諸費用などを引いた残りのお金だ。諸費用が掛かるのは、投資信託や株の信用取引なども同じだが、保険の場合、それが高額だ。特に、契約初年度に販売員に支払われる手数料が高額で、自己資金が大幅に減った状態から貯蓄・運用が始まると認識したほうがいい。 論より証拠。都心の保険ショップで、先ほどの「ニッセイ一時払終身保険」の提案書を作成してもらった。お金がどれほど増えるのか、確認してみよう。