建築基準法が生活を便利にする? 容積率緩和とネット通販の関係とは
容積率に「算入しない」ことを明確化
「なぜ容積率という指標が必要なのかといえば、それは大きな建築物をむやみにつくるとインフラに負荷がかかり、社会が混乱するからです。大きな建物には多くの人が出入りし、集まります。そうした大規模な建物の周辺には自動車がたくさん走りますし、上下水道や電気・ガス・通信網などの手厚い整備も必要になります。容積率で一定の制限をかけることにより、インフラへの負荷を抑制することにつながるのです」と話すのは国土交通省住宅局市街地建築課の担当者です。 こうした考え方から、住宅街では容積率が低く抑えられており、高層ビルが建築できないようになっています。 これまで、宅配ボックスを容積率に算入するのかしないのかが曖昧になっていました。宅配ボックスが容積率に算入されるのであれば、その分だけ建物を高く建築できなくなります。それはマンションやオフィスとして使える面積が減ることを意味し、賃貸収入にも影響するため、これまで不動産や建設の事業者などは宅配ボックス設置に消極的だったのです。しかし今回の改正で、容積率の規制は緩和され、宅配ボックスが設置しやすくなりました。国交省の担当者は続けます。 「物流事業者のトラックが何度も行き来すれば、周辺の道路が渋滞します。また、路面の傷みも早くなり、修復工事を頻繁にしなければならなくなるでしょう。宅配ボックスの設置は、インフラへの負荷を軽減することにもつながります。また、トラックの往来が減少すれば、振動や騒音が軽減されて生活環境面でもプラスがあります。そうしたことから、宅配ボックスの設置運用を見直しました。まず手始めに、昨年11月から共同住宅に設置される宅配ボックスは容積率に算入しないことを明確化しました」
コンビニや病院でも設置が進むよう政令も改正
しかし、宅配ボックスが設置されているのは共同住宅ばかりではありません。前述したように、宅配事業者は再配達を減らすために近所のコンビニなどでも受け取れるようなシステムを導入しています。 こうしたシステムは便利ではありますが、最近ではコンビニも人手不足に陥っており、宅配事業者が大量の荷物をコンビニに預けるようになれば、別の混乱が生じかねません。 「そうした実情を踏まえ、共同住宅における宅配ボックスの容積率算入を見直すだけではなく、コンビニや病院、戸建住宅などでも宅配ボックスの設置が進むように政令改正を実施しました。今年9月からは、すべての建築物で延べ床面積の100分の1を上限に宅配ボックスが容積率算入の対象外になっています」(同) 建築基準法の見直しによって宅配ボックスの設置が進み、物流が効率化することで私たちのネット通販がより便利で快適になることは言うまでもありません。また、トラックの通行量が減ることで振動や騒音といった生活環境が改善することや、地域の子供たちが安心して道を歩けるようになるといった効果も出そうです。 私たちの生活から縁遠い存在に見える建築基準法ですが、実は私たちの身近なところで生活を便利にし、社会問題を解決する一助として作用しているのです。 (小川裕夫=フリーランスライター)