【連載】言の葉クローバー/清水英介(Age Factory )憧れた『69 sixty nine』の世界
心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回は、Age Factoryのフロントマン清水が、10代の自身に大きな影響を与えたという村上龍の小説から言葉を選んで、語ってくれました。
----------------------------------- 想像力が権力を奪う 小説『69 sixty nine』 -----------------------------------
怒りが自分の原動力だった時代は超絶影響されてました
村上龍は兄貴が本を集めてたのもあったんですけど、けっこう好きで中学生の頃から読んでたんです。最初は『希望の国のエクソダス』とか『限りなく透明に近いブルー』とかを読んだんですけど、難しくて無理で。ただ『69 sixty nine』だけはすごく読みやすかったんですよね。 この本は、村上龍の実体験がもとになった青春小説です。1969年の長崎・佐世保が舞台で、世の中は学生運動が盛んになっていた頃。主人公である高校3年生の矢崎剣介は自分たちの学校でもバリケード封鎖をしようって奔走するんですよ。それも同級生のマドンナの気を惹くために。 俺が通ってた中学校は奈良の田舎にあって、みんな真面目すぎてヤンキーもおらんし、なんもないんですよ。平穏でおもんない。それにすごく嫌気が指して、ジャンケンで負けたやつを殴るみたいな、ファイトクラブ的な遊びをしたりしてて。みんな普通のヤツらなんですけど、退屈すぎてそういう遊びをするしかなかった。そんな刺激のない中学時代を過ごしていた自分にとって、この主人公たちの行動はすごく痛快で、すっきりしたのを覚えています。 作中、学校をバリケード封鎖した時に屋上から垂れ幕を下ろすんですよ。そこで掲げたスローガンが「想像力が権力を奪う」という言葉で。言ってしまえば、九州の田舎町の高校で、親や教師の言いなりにならずにリベラルを定義しようとしたんですよ。このスローガンを掲げて、自分らなりの方法で闘争する主人公たちを見ながら、〈こいつらの友達になりたかったな〉ってほんまに思ってましたね。 当時の自分からすると、母数が多いものが権力に見えてた。多数決で数が多いほうが正義、みたいな。でも想像から生まれるものによって、それをひっくり返せるかもしれないと思えたし、音楽でそれをやってやろうと思ってましたね。だから10代、20代前半の頃、怒りが自分の原動力だった時代は超絶影響されてました。 今は怒り以外の感情も表現したいと思うようになってきたけど、この言葉に感じたロマンは変わってなくて。曲自体が俺の想像力から生まれたもので、それが誰にどんな作用を及ぼすかはわからない――喜びだけじゃなくて、イライラさせたり、泣かせるかもしらんけど、聴いてくれた人に新たな感情が生まれるものを想像力から出せることが俺はうれしい。この言葉は、初心であり、原点にある気持ちですね。 こう話してみると小難しい内容の本ってとられるかもしれないけど、全然そんなことはなくて。下ネタとか女の子に対する思春期の男のタブーとかが赤裸々に書かれてるし、現代とのジェネレーションギャップも含めて、楽しく読める作品です。 『69 sixty nine』 著者:村上龍 1952年長崎県生まれ、1976年に『限りなく透明に近いブルー』で第75回芥川賞受賞した村上龍。この作品は、1969年の長崎県佐世保市を舞台に、学校のバリケード封鎖、フェスティバルの開催など村上龍自身の実体験を基にした自伝的な青春小説。1987年出版。2004年には主演・妻夫木聡、脚本・宮藤官九郎、監督・李相日で映画化もされた。