大沢たかお 30年俳優を続ける中で、常に考えていること「心地いい場所からは脱したい」
Amazon Original ドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』で、主人公・海江田役を務める大沢たかおさん。自問自答を続ける海江田を演じることで、改めて“気づいた”こととは――。インタビュー後編では、大沢さん自身の人生観に迫りました。 【写真を見る】かっこよすぎる…! 歳を重ねるごとに魅力を増す大沢たかお
意外なギャップや欠点が色気などの魅力につながる
――自問自答を続ける海江田を演じることで、ご自身のなかにも気づきはありましたか? この作品で描かれる大義や正義というのは、もともと僕個人のテーマでもあるんですよ。それがどういうことなのかわからないから、『沈黙の艦隊』をやりたいと思ったところもあって。 ――大義や正義を考えるきっかけのようなものはあったんでしょうか。 具体的なきっかけがあったというよりは、俳優という仕事を30年続けてきて、「人間というのはいつまでたっても完成しない、欠陥だらけの存在なんだ」ということを実感してきたというのが大きいですね。人と人との間に軋轢が生じたり争いが絶えなかったりするのは、必ずしも真正面から対立しようと思ったからではなくて、ほんのちょっとのズレが積み重なった結果であることが多いんじゃないかなって。さほど欲なんて抱いてなかったはずの人が、その人なりの人生を歩んでいくうちに、いつのまにか強欲になっているということもある。知らないうちに誰かから大事なものを奪っていた、なんてこともあるでしょう。 ――明確な悪意をもっているわけじゃないからこそ、解決できずにこじれることも多いですよね。 『沈黙の艦隊』の大統領じゃないけど、それが人間なんだとは思うんです。感情をもって生きるというのは、そういうことなのだと。でも逆に、いい方向にズレることもあって、僕はその瞬間の感動を得られるからこそ、この仕事をしているともいえる。たとえば、役者が一から十までミスのない芝居をしたからといって、いい作品になるとは限らないんですよ。監督やプロデューサーをふくめ、みんなが“少しずつ間違える”からこそ、予定調和ではないおもしろさが生まれる。 ――とくに仕事では、間違えてはいけないと思い込んでしまいますが……。 でもきっと、新しいテクノロジーなども、最初はなんらかのミスから生まれているんじゃないかと思うんですよ。計算外のことをしたら意外な反応がみられて、それが世紀の発明につながった……なんてことも山ほどあるでしょう。人間としても、間違いも隙も一切ない人が魅力的かといえばそうでもない。意外なギャップや欠点が色気などの魅力につながる。そもそも一つも間違えないなんてことは、生物としてありえないわけで。 ――多寡はあるでしょうが、ゼロにはなりませんね。 そこが人間のおもしろさなんだと思います。ただそれを、相田みつをさんみたいに「人間だもの」と肯定的に表現することもできれば、今作のように「だから争いはやめられないんだ」と諦めや怒りとして受け止めることもできる。どちらに振れるかによって、おもしろいのかおそろしいのか変わる。それによって正義や大義という言葉の意味も変わってくる。それが僕にとっての考えなきゃいけないテーマかな。