松田聖子・62歳になっても「変わらない」ことを選び続ける凄まじいプロ根性とサービス精神
結婚、出産、離婚、再婚……それでも聖子は
そして人気もピークの1985年1月、交際をオープンにしていた郷ひろみとの破局会見を開くも、映画『カリブ・愛のシンフォニー』(1985年4月公開)で共演した神田正輝との婚約を4月に発表、6月24日に結婚する(1997年離婚)。ふたりの結婚は互いの名前から「聖輝の結婚」と呼ばれ、連日マスコミを賑わせた。 その後、妊娠出産のため、この年の「NHK紅白歌合戦」出場を最後に、聖子は芸能活動を休業する。 超人気アイドルが23歳で結婚し、翌年に長女(神田沙也加さん)を出産……ママタレたちがこぞって活躍する今となってはちっとも珍しくないかもしれないが、当時の感覚としては、アイドルとはまさに“偶像”であって、その人気を維持するためには、恋愛、結婚、出産といった、一般人の人生の営みとは異なる道を歩むものであった。少なくとも表向きは。 だから、松田聖子は松田聖子として活動するときは、あたかもコスプレするように“アイドル”を演じた。しかし、聖子はそれだけでは満足せずに「人間・松田聖子」でもあろうとしたのである。 今回の日本武道館を埋めた中高年女性たちは、少女時代から松田聖子とともに成長し、恋愛、結婚、出産、もしかしたら離婚までも、自分たちのロールモデルとして松田聖子を見つめてきたのではないかと思う。 聖子のステージに熱く盛り上がる聖子と同世代の女性ファンの眼差しには、並々ならぬ思い入れがこもっていると感じたのは、筆者の思い違いではないはずだ。 実際、聖子のコンサートチケットは抽選制だが、その競争率は常に高い。年末の恒例ディナーショーも言わずもがな。5万円超えの高額もなんのそのだ。
「変わらない」聖子でいつづける凄み
ところで筆者は、縁あってこれまで松田聖子のコンサートをかなりの長い期間に渡って、不定期にではあるが観てきた。 その活動期は大きく分けて、3つに分類できる。デビューまもない頃から結婚までの第1期。活動復帰からアメリカ進出を目指し、同時に男性スキャンダルにまみれた第2期。21世紀に入ってベテランアイドルとしての円熟味を感じさせる第3期だ。 そのうえで、今回のステージを観て最も強く、そして改めて感じたことがある。 松田聖子は「変わっていない」。 まるでコスプレのようにフリフリのドレスをひるがえしてザ・アイドルを演じ、ファンがみんなで歌える大ヒット曲を惜しみなく歌う。セットや衣装、メイクは時代時代で少しは変わっているけど、コンサートの中身は、語弊を恐れずに言ってしまえば、まったく「変わっていない」。 聖子のコンサートはいつの時代も、往年のヒットメドレーを欠かさない。アーチストによっては「昔の曲はやりたくない」として、新曲や新しい挑戦の披露にこだわる人もいる。 しかし松田聖子は、そこはサービス精神とプロ根性の人。ファンが望んでいる楽曲をとことんやる。それが毎回でもやる。 そしてこれが本当にすごいことなのだが、聖子は楽曲だけでなくアピアランス……立ち姿、歌う姿、しぐさなどもまるで変わらない(ように見える)。 マイクを片手にちょっと小首をかしげ、左右の肩を交互に前に出してリズムをとる歌い姿は、かつての「ぶりっ子」以外の何者でもない。 大変ハイレベルな実力の持ち主であろうバックダンサーたちも、かつてのスクールメイツのような衣装をまとい、聖子の単純なステップに合わせたダンスでステージを盛り上げる。 この日のステージでの最後の衣装は、不思議の国のアリスを彷彿とさせる水色の膝丈ワンピースに白いフリルのエプロン、ソックス‥‥もちろん『時間の国のアリス』を歌いながらの登場だ。 彼女は62歳である。一般に去年できたことがまた今年もできるとは限らない年齢にさしかかっている。それでも「変わっていない」と思わせるためには、相当の努力があることは想像に難くない。そしてそのことを会場を埋めた同世代のファンたちはよーく知っている。 先述したように、聖子はアイドルだけを演じていたわけではない。生身の女性の人生(恋愛、結婚、出産、離婚など)の生き様も、同年代のファンに見せてきた。 それだけに彼女たちは、今なお目の前のステージで輝きを放っているアイドル・聖子を観て、聞くことで、あの頃の自分に思いを馳せ、感傷に浸ったり、元気を思い出したりできる。 あの頃の自分、青春真っ只中だった自分、恋愛や結婚に夢中だった自分につかの間、戻れるのだ。 その触媒となる楽曲を、昔の映像ではなく今の聖子がかつてと変わらないパフォーマンスとともに届けてくれる……それこそ、現在も衰えることのない松田聖子のコンサートの最大の魅力なのだろう。 まるで作中の登場人物がまったく歳をとらない『サザエさん』のようである。でも、サザエさんは漫画であって、松田聖子は実在の人間。 そこに「聖子」の凄さがある。 取材・文/集英社オンライン編集部
集英社オンライン編集部