東大が授業料値上げ 他の国立大学への波及は? 交付金は減少、物価高で研究費は上昇・・・中国地方の複数校が値上げに含み
多くの国立大が授業料を20年近く据え置いてきた中、東京大が来春の値上げを決め、他大学にも波及するか注目されている。中国新聞社は中国地方の国立5大学の学長に、値上げの可能性などを尋ねるアンケートを実施した。値上げを明言した大学はなかったが、国からの運営費交付金が減って経営が厳しくなる中、複数の大学が今後の値上げに含みを持たせた。 中国地方の国立5大学、授業料値上げに関するアンケート結果 アンケートは、8月中旬~9月中旬に実施。授業料値上げの検討状況の大学の財政事情、国への要望などを尋ねた。 値上げについて五つの選択肢から回答を求めたところ、鳥取大が「検討する可能性がある」とし、他の4大学は「その他」を選んだ。「値上げする予定」「予定は当面ない」「検討中」とした大学はなかった。 「その他」の4大学のうち、岡山大と山口大は自由記述で値上げの可能性に言及した。岡山大の那須保友学長は「運営費交付金が減額し続ける中で、運営の限界に来ている」とし、「授業料の適正化について総合的に検討を開始している」と踏み込んだ。理系と文系、あるいは学部によって授業料に差を付けることも「あり得る」とした。 山口大の谷沢幸生学長は「運営費交付金の増額や授業料の増額などによる対応が必要不可欠な状況にある」と説明。文部科学省の有識者検討会の議論などを踏まえつつ、大学としても「(授業料の)あり方を検討している」とした。 広島大の越智光夫学長は、自由記述で「運営費交付金や授業料をめぐる国等の状況について注視している」と回答。島根大の大谷浩学長も「国や各大学の議論の動向を注視していきたい」と記した。 各大学が頼みの綱とする運営費交付金は、人件費や研究費に充てる基幹的な財源だ。しかし、国の財政難などを理由に縮小傾向が続いている。24年度に国立大86校に交付された総額は1兆784億円。法人化当初の04年度より約1600億円(13%)も減った。 中国地方の5大学も、04年度と24年度の比較では、広島大34億2900万円(11・8%)減▽山口大29億6100万円(20・2%)減▽岡山大30億3900万円(15・3%)減―などと大幅に削られている。これが財政を圧迫し、授業料値上げの議論を生む要因になっている。 物価高に伴う研究費(光熱費、人件費なども含む)の上昇も、各大学の予算繰りを難しくしている。このほか、山口大の谷沢学長は、留学生の受け入れ増やデジタル教材の導入などを背景に、学生1人当たりの教育経費がこの20年で2倍になったと説明。授業料は上げず、教員数を減らすなどして学生の修学機会を確保してきたが「教員をこれ以上減らせば、教育の質を維持することもままならない」と危ぶむ。 岡山、島根、山口の各大学は、付属病院の収益悪化も挙げる。こうした厳しい状況にもかかわらず、各大学がすぐに授業料を上げないのは、値上げが「経済的事情の厳しい生徒の進学機会を狭める」との懸念があるためだ。 島根大と鳥取大は「受験者・入学者の減少」も不安視する。鳥取大の中島学長は「地方では都市部との所得格差があり、授業料を上げた場合、進学者が減ることが予想される」とする。岡山大の那須学長は、値上げする場合は「授業料免除や奨学金の拡充等の配慮が不可欠だ」と強調する。 国への要望では、5大学がそろって運営費交付金の増額を挙げた。広島大の越智学長は「例えば(研究課題の公募で採用された研究者だけに資金が提供される)競争的資金を幾分か減らしてでも、運営費交付金を増額すべきである」と提起する。鳥取大の中島学長は交付金の増額で「授業料を値上げしなくても教育研究に影響が出ないようにしてほしい」と望む。島根大の大谷学長は、給付型奨学金の拡充も求めた。
中国新聞社