あなたの知らない札幌《酪農と乳の歴史館》前編 北海道酪農の歴史伝える
【北海道・札幌】人口200万人の声も聞こえる北の大都市・札幌。その札幌には、多くの観光地や名物施設があります。とはいえ、札幌市民ですらそれらのすべてを知っているわけではありません。そこで「あなたの知らない札幌」と題した企画をスタート。第9回・第10回は「次の世代に残したい北海道の宝物」というコンセプトで制定されている北海道遺産の、「札幌苗穂地区の工場・記念館群」から2施設をご紹介します。第9回前編は、来年40周年を迎える「酪農と乳(にゅう)の歴史館」(札幌市東区)の館長・猪狩章博さんに、北海道における酪農の歴史について伺いました。(取材・構成/橋場了吾)
雪印メグミルクが札幌本社にこだわる理由
「酪農と乳の歴史館」は、1975(昭和50)年に建設が決定し1977(昭和52)年に落成した施設で、来年40周年を迎えます。現在は雪印メグミルクという社名ですが、当時はその前身である北海道製酪販売組合の創立50周年を記念して建てられたもので、最初の名前は「雪印乳業史料館」でした。 同館の見学とセットになっているのが、雪印メグミルクの札幌工場の見学です。広報機能などは東京に移転していますが、雪印メグミルクの本社はあくまで札幌です。 なぜ札幌にこだわるのか…。それは、雪印メグミルクの前身・北海道製酪販売組合がここ札幌で酪農をスタートしたからです。同組合が設立されたのは1925(大正14)年のことです。宇都宮仙太郎をはじめとする生産者たちが集まり、「協同友愛」「相互扶助」「寒地農業の確立」をコンセプトにスタート、日本で初のバターの生産工場となりました。 当時の日本では、バターはまだ一般的なものではありませんでした。ですので、製造法も何もわかりません。そこで仙太郎らはデンマークに渡り、酪農を学びその技法を持ち帰りました。 仙太郎は実は九州男児です。その仙太郎がなぜ札幌で酪農をしようと思ったのかというと、ホルスタインにとって最高の気候(暑さに弱く寒さに強い)だったことと、綺麗な水が豊富にあることでした。 バター・牛乳などの乳製品を作るのには、綺麗な水が不可欠です。もちろん、牛乳を水で薄めるのではなく、さまざまな機械を洗浄したり製品を冷却したりするためには大量の水が必要になるわけです。その水は、綺麗に越したことはありません。そこで、現在の札幌工場がある苗穂町(なえぼちょう)が選ばれたわけです。
札幌工場限定の乳製品飲料も
最初の製品はバターでしたが、発売当初からパッケージがほとんど変わっていないことも特徴です。また、牛乳・チーズは昭和に入ってから製造されるようになりましたが、今のような価格帯ではなく、富裕層に限られた商品でした。 その中で、ちょっと変わった商品が登場します。その名は『カツゲン』。この『カツゲン』は、雪印メグミルクの商品の中でも珍しく札幌工場のみで製造されている乳製品飲料です。そして北海道限定で発売されているのですが、その名前から受験生に人気でして「勝源(かつげん)神社」があるくらいなのです。 (後編へ続く)