「AIの存在におびえる人」は自分の価値を再考せよ 「人に必要とされないと嫌」思考がもたらす問題
AIの進化は私たちに何をもたらし、社会をどう変革していくのか。その答えを探るべく、日本の情報工学をリードする第一線の研究者で、師弟の間柄でもある暦本純一さんと落合陽一さんが「AI時代の知性」をテーマに語った。 本稿では、その対談をまとめた著書『2035年の人間の条件』からの抜粋で、AI時代に必要とされる「ひとり遊びという才能」について紹介する。 ■AIは知能の格差を広げる ──一般的には「人間の仕事が奪われてしまう」などとAIと人間を敵対的な関係としてとらえている人も多いと思います。AIと人間の関係性は、将来どのようになるのでしょう。道具として使うものなのか、あるいは人間とAIが融合するようなイメージなのか。
落合:単なる道具よりは、身体的な存在だと思います。ただ、昔の記憶を思い出すようにAIの思考が人間の頭の中に出てくるかとなると、そうなるまでにはちょっと時間がかかるでしょうね。 いずれにしろ、大事なのはうまく使うことです。そもそも、仮に人間の知性が二極化したとしても、サルやネコと人類の差に比べたら、人間同士の差は誤差の範囲内。 その意味では、人類の知性はある意味でほぼ一定なんですね。だけど、チャットGPTの登場以降、たとえばパイソンでそれまでの100倍以上のコードを書くようになった人は、すごく少ないでしょう。人類全体の生産能力はものすごく上がったはずなのに、実際に生産する人類は少ないんですよ。
つまり、AIによって知性がまんべんなく行き渡っても、それを利用する人間は少ない。オープンAI※1の人たちは「これで人類に知性を配り終えたから、格差は解消されるぜ」と真面目に考えている可能性があるけど、配ればみんな知性が高まるかというと、たぶんそんなことはない。 ※1 オープンAI AIの開発を行っている米国の企業。対話型生成AI「チャットGPT」はその代表作。サム・アルトマン、イーロン・マスクらによって、2015年に非営利法人として設立された。2018年にはイーロン・マスクが役員を辞任。2019年には営利部門の「OpenAI LP」を設立した。