27歳のアーティストに全責任を負わせてはいけない…炎上した「ミセスMV」が意図的にも見える3つのポイント
■MV「コロンブス」が暗示した植民地主義や人種差別 8歳のわが子もミセスのファンで、自宅でよく聴いている。小学校の給食の時間の放送でもよくかかっているそうだ。そこで今回のMV「コロンブス」も公開されてすぐにチェックしたのだが、一見して「これは流して大丈夫なものなのか?」と不審に思った。 ポップに仕上がりながらもビジュアル上で植民地主義や人種差別が丸出しで、初見では「黄色人種である日本人が『あえて』これをやる」という皮肉……? とも思った。しかし、それは明るく王道の楽曲を出してきたバンドイメージにそぐわない。疑問に思ううちに、非公開措置をとった旨のプレスリリースがユニバーサルジャパンから13日に出された。 以下、「コロンブス」MVで確認した場面と、その図像からはこう読み取られても致し方ない、という歴史的事実を3つのポイント別にご紹介する。 ■ポイント1、トロピカルな島の猿人の家に「土足」で入るコロンブス ・バンドの3名がそれぞれコロンブス、ナポレオン、ベートーベンという白人の「偉人」のコスプレをしている。曲名でもあるコロンブスは、近年ではアメリカ大陸の「発見者」から「到達者」と言い換えられ、「奴隷商人」としての側面に光が当たるようになり、評価が大きく変わった人物だ。 ・冒頭で、着ぐるみの猿人(類人猿)の家に、コロンブスたち「偉人」3名が土足で入ってくる。猿人はかつての「未開人」「土着民」や「先住民」を連想させ、この出会いは「入植」「侵略」をイメージさせる。 ・猿人たちの家はトロピカルな南の島にポツンと立っている。トロピカルな海=太平洋やカリブ海は、欧米列強の帝国主義によって占領、略奪、殺りくの場となった地域だ。事実、コロンブスが到達したのも、アメリカ大陸ではなくカリブ海のバハマ諸島である。
■ポイント2、コロンブスら白人が猿人に楽器・騎馬・練兵などを教育 ・ベートーベンが猿人に、ピアノのような西洋楽器の弾き方を指導する。西洋の近代楽器は、世界各地の民族楽器に比べてはるかに「鳴りがよい」ことが特徴だ。しかしその西洋の楽器の発展は、南米のポトシ銀山など、第三国からの富の収奪の上に成り立ったという歴史がある。 ・ベートーベンは猿人の弾き方を否定して教えるが、猿人はそもそもオリジナルの音楽を持っていたであろうことが、楽器がすでに猿人の家にあったことから推察される。 ・ベートーベンは無文字社会に生きてきたと思しき猿人に楽譜の読み方を教育する。これは北米・南米大陸が当時無文字社会であり、それもあって入植者に騙されやすかったという史実に合致する。 ・ナポレオンが騎馬法を猿人に指導する。西洋の「騎馬技術」は、コロンブスによるアメリカ到達後、スペインにより北米、南米大陸に広まったものであり、これもアメリカ入植の歴史をなぞっている。 ・騎馬指導を受けた猿人たちは、ナポレオンのかたわらでナチス的にも見える「軍隊式敬礼」を行う。 ■ポイント3、猿人は3種類、黒人・ヒスパニック・アジア系を想起 ・人力車が登場し、それに乗るのは白人役のバンドメンバーで、引くのは猿人の中でも特に色の濃い「黒人」とおぼしき着ぐるみを着た人種だ。猿人の毛の色には濃淡があり、少なくとも3色に分かれており、黒人、ヒスパニック、アジア系の3種を暗示するように見えた。 ・コロンブスが長いテーブルの上座に「座長」として着席し、彼以外の猿人たちは被支配者のように座っている。コロンブスの背後の壁にはバッファローの角飾り。バッファローはネイティブアメリカンの生活を支えていた動物で、入植者に大量虐殺された歴史がある。 ・卵を持って戸惑う猿人たちを尻目に、コロンブスは誇らしげに卵にヒビを入れて立ててみせる。これはよく知られた「コロンブスの卵」の逸話だ。MV中では白人が猿人(有色人種、先住民)に「ものを教えてやる」という上から目線のシーンが散りばめられている。これは世界史を紐解けば入植に伴う「教育」、つまり言語・宗教の強制や、その後の強制労働等を暗示しているととられても仕方ない。 このように、ごく一部を取り出してご紹介するだけでも、驚くほど「アウト」なイメージが散りばめられたMVなのだ。単なる「無知による偶然」というよりは、コロンブスのアメリカ到達が発端となって起こったその後の先住民からの収奪・搾取の歴史を、むしろ「忠実、そして巧妙に」そしてポップに明るく仕立てたものに見えた。