103万・106万・130万円…こんなにある「年収の壁」、「男が稼ぎ、女は家事」支えた制度はもういらない?
■ 3つの「壁」…税金・社会保障・企業の配偶者手当 勤労者が徴収される税金や社会保険料は、収入が増えるにつれ、階段のステップを踏むように段階的に増えていきます。その際、あるステップでは徴収される金額が年収増よりも多くなり、手取りが減少する「逆転」が生じる場合があります。そのため、勤労者は手取りが減少しないよう労働時間を抑制したり、働きたいのに働くのをやめたりという選択肢を取る現象が生じます。これが「年収の壁」と呼ばれるものです。 「壁」には3つの種類があります。「税金の壁」「社会保険の壁」、そして企業などが独自に設けている「配偶者手当に関する壁」です。 ここからは、厚生労働省の公表資料「年収の壁について知ろう」や「女性の就労の制約と指摘される制度等について(いわゆる「年収の壁」等)」などをひも解きながら見ていきましょう。 まずは「税金の壁」です。 税金は「収入」(いわゆる総支給額)から「必要経費」(給与所得者の場合は給与所得控除など)を差し引いた「所得」に対して、一定の割合で課税されます。 ■ 【100万円の壁】 年収の低い方から見ていくと、最初に現れるのが「100万円の壁」です。これは住民税の支払いが発生する境目。年収100万円までは住民税も非課税ですが、これを超えると、以下の住民税が発生します。 ◎年収101万円-控除総額98万円(基礎控除43万円+給与所得控除55万円)=3万円(個人住民税の課税対象額) 個人住民税は「所得割」と「均等割」で構成されます。所得割の税率は10%で、内訳は道府県民税が4%、市町村民税が6%(東京都の場合は都民税4%、市区町村民税が6%)。均等割は「地域社会の会費」的なもので、税額は4000円(道府県民税が1000円、市区町村民税が3000円)程度です。
■ 【103万円の壁】 次に現れるのが「103万円の壁」です。1年間の収入が103万円までの場合は非課税ですが、103万円を超えると所得税が発生します。 ◎年収104万円-控除総額103万円(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)=1万円(所得税の課税対象額) 一方、給与所得者を対象とした控除(必要経費)には、憲法の生存権に基づく「基礎控除・48万円」、すべての給与所得者に適用される「給与所得控除・55万円」があります。つまり、年収が103万円以下ならこの控除総額103万円によって所得がゼロとなり、所得税がかからなくなるため、パート労働者などは年収が103万円を超えないよう労働時間を調整しているとされてきました。 これが、いま問題となっている「103万円の壁」です。国民民主党の提案はこの控除総額を現行より75万円引き上げて、トータルで178万円にするという内容です。この減税によって手取りが増えるうえ、課税を嫌って仕事量を抑えていたパート労働者たちがもっと長い時間働くようになり人手不足も緩和される、と同党は主張しています。 このほか、配偶者控除・配偶者特別控除に関わる「150万円の壁」「201万円の壁」も存在します。 ■ 【106万円の壁】 次に問題となるのは、健康保険や厚生年金保険の支払いが生じる「社会保険の壁」です。一般には「106万円の壁」と呼ばれてきました。 従業員101人以上の企業で働く人が、月額賃金8.8万円(年収換算で約106万円)、週の労働時間が20時間以上などの条件を満たす場合、パートタイマーであっても社会保険に加入させなければならないというルールがあります。今年10月からは「従業員51人以上の企業」で働く人にもこの要件が適用されることになりました。 ■ 【130万円の壁】 一方、年収130万円に達すると、すべての人は社会保険に加入し、国民健康保険や国民年金の保険料を支払わなければなりません。これが「130万円の壁」です。 ここで問題になるのが国民年金の「第3号被保険者」です。第3号被保険者とは、会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養されている配偶者であり、かつ、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の人を指します。現実には、その多くがサラリーマンの妻です。妻は年収130万円を超えない限り、個別に社会保険料を支払う必要はありません。 そのため、社会保険料の支払い義務が発生することを嫌って、多くの女性が「就業調整」することがわかっています。 厚生労働省の「パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」(2021年)によると、配偶者がいる女性のパートタイム労働者のうち、21.8%は実際に就業調整していました。その理由として「一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険、厚生年金保険の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから」と回答した割合は57.3%に達しました。また、「一定の労働時間を超えると雇用保険、健康保険、厚生年金保険の保険料を払わなければならないから」と回答した割合も21.4%となっているのです。