宅地液状化の復旧、能登被災地でノウハウ支援 熊本市が職員派遣 家屋の被害認定調査でも経験生かす【熊本地震】
能登半島地震で相次いだ宅地の液状化被害に、熊本市が2016年の熊本地震の経験を踏まえた助言を続けている。被害は石川、富山、新潟3県の広範囲にわたって確認され、政府は自治体への財政支援で再発防止策を後押しするが、実施には宅地所有者の合意形成が課題となっている。復旧に十分なノウハウを持つ自治体は少なく、市は支援に力を入れる。 家屋の沈下や傾斜といった液状化などの影響で約1万8千棟の住宅に被害が出た富山県。熊本市は2月下旬、都市安全課の職員を富山市などに派遣し、地元の自治体職員に対策工事の進め方をアドバイスした。 熊本市では、熊本地震による宅地の液状化被害が約2900戸に上った。市は被害が集中した近見地区で、国が半額補助する「宅地液状化防止事業」を活用。被害を受けた宅地と道路などを一体的に改良し、地震に強い地域への復興を目指している。工事は25年度に完了する見込みだ。 課題となったのが住民の合意形成。被害の程度が一律ではなく、住民間の温度差があったが、市は説明会や戸別訪問を重ね、事業の進捗[しんちょく]を知らせる広報紙を発行して理解を促した。国の補助に独自財源を上乗せして住民負担をなくし、地震から約4年後、全8区画の同意にこぎつけた。
液状化の対策工事は住民の理解が欠かせない。富山県の自治体職員からは国の補助制度や対策工事の手法に加え、住民との協議の進め方についても質問が相次いだ。能登半島地震以降、液状化被害に関する熊本市への問い合わせは今もあり、累計で120件を超えている。 都市安全課の上村祐一課長は「日常生活の困り事を聞くなど、住民への丁寧な対応を心がけてきた。地震による液状化の被害は、全国でも例が少ない。熊本地震の知見を生かしてほしい」と話す。 人手不足が課題となった家屋の被害認定調査でも、熊本地震の反省が生きた。市は内閣府などの打診を受けて、土砂崩れで道路が寸断された石川県珠洲市大谷地区の調査を遠隔で担当。2月中旬、約800キロ離れた熊本市役所からドローンで撮影された被災家屋の写真を基に市職員が「全壊」「半壊」などと6段階で判定した。 市によると、熊本地震の際、被害調査が必要な住宅は当初7万棟近くに上ったが、担当する税制部門の職員は30~40人。他の部署や全国の応援職員の協力を得るまで調査は進まず、罹災[りさい]証明書の発行が遅れた。
この経験から、市は18年に全ての部署を対象に被害認定調査の研修を始めた。毎年40人が受講。受講した職員の名簿も作成し、全国の災害応援に対応できる体制を整えている。 遠隔調査に当たった税制課の村田絢也副課長は「熊本地震の経験で確認すべきポイントが分かっていたので、スムーズに調査できた。後手に回った対応を繰り返さないよう、日頃の備えを大切にしたい」と力を込める。 熊本市は4月末までに、能登半島地震の被災地に職員延べ449人を派遣。今後も支援を続ける考えだ。(臼杵大介)