【イラスト1】脊柱がS字になるよう意識する

　錦織圭、マリア・シャラポワ、大坂なおみ、ネリー・コルダ……指導した数々の選手を世界トップレベルに導いてきたトレーナー界のカリスマ、中村豊。彼に指導を受けた選手たちは、アスリートとして大幅なステップアップを遂げています。 中村はトレーニングによってのみ身体能力が向上するわけではなく、必要なのは「トレーニング」「リカバリー」「栄養」の3つのメソッドだと語ります。そして、この3つを適切に行えば、一般の人でも身心が健全に整い、若さを持続できると主張するのです。その実践方法を分かりやすく具体的にまとめたのが、中村の初著書『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では同書から「誰もが自宅で簡単にできるフィジカル・トレーニング」を紹介していきます。 「歩く」ことは誰もが日常的に行っている行為です。しかし、このウォーキングを正しい姿勢で正確に行うだけで、素晴らしいトレーニングになることをご存じですか？ 正確に歩くことで身体の歪みが矯正され、股関節痛、腰痛、膝痛の解消にもつながるのです。ウォーキングは無理なく気軽に行える、最強のトレーニングメソッドと言えるでしょう。 【この記事の画像を見る】 ●　間違った歩き方で生じる不都合 　トレーニングを始めるに際して最も注意すべきなのは、正しい動作で行うということです。間違った方法では、せっかくのトレーニング効果も半減してしまいます。 　最初にチェックするのは、自分の姿勢です。 　まず、立った状態で、つま先、手の位置、頭の位置が真っ直ぐであるかを鏡で確認して調整してください。初めはぎこちなく、窮屈に感じるかもしれませんが、次第に常に正しい姿勢が取れるようになります。さらに【イラスト1】のように脊柱がS字になるよう意識してください。 　次に座った状態で、身体が傾かず左右対称になっているかをチェックしてください。 　こうして正しい姿勢を取れるようになったら、歩行動作に入ります。歩く時には、足を動かすだけでなく、上半身と下半身の連動を意識してください。頭、脊柱、股関節は1本の支柱だと思って動かさず、進行方向へ足と腕の振りが行われているかを確認します。 　そしてこれは非常に重要なことですが、つま先と膝を進行方向に真っ直ぐ出して歩くのです。この方向がずれていると、股関節、膝、腰に負担をかけてしまいます。股関節痛、腰痛、膝痛は日常の間違った動作によって生じるのです。 ●　ウォーキングこそが 最善の健康メソッドである 　厚生労働省の調べによると、日本人の1日の平均歩数は約6000歩、時間にすると1時間ほど歩いているそうです。この毎日1時間のウォーキングでつま先と膝の方向を合わせるだけでも、身体の歪みに効果があり、歪みから生じる腰痛なども次第に解消されることが期待できるのです。 　ウォーキングで身体を動かすことには以下のような効果もあります。 　（1）血液循環の改善により、基礎体温の上昇（冷え性対策・各種病気への耐性） （2）体温上昇にともない、抵抗力が上昇 （3）毛細血管まで血の巡りが良くなることで筋肉性能の向上 （4）酸素循環の向上（持久力や運動パフォーマンスの向上） 　このようにウォーキングはあなたの健康に大きく寄与するのです。 　（本原稿は中村豊『世界最高のフィジカル・マネジメント』から一部を抜粋・編集して掲載しています） 中村 豊（なかむら・ゆたか） ストレングス＆コンディショニングコーチ 1972年生まれ。高校卒業後アメリカにテニス留学。スポーツトレーナーという職業に興味を持ち、カリフォルニア州チャップマン大学で運動生理学、スポーツサイエンスを学ぶ。1998年、サドルブルック・テニスアカデミーのトレーニングコーチに就任。2000年、女子テニスプレーヤー、ジェニファー・カプリアティのトレーナーに就任し、翌年世界No.1に導く。2004年よりIMGアカデミーに所属し、錦織圭のトレーニングを14歳から20歳まで受け持つ。2011年よりマリア・シャラポワの専属トレーナーに就任。シャラポワの黄金期を7年間支える。2020年6月、大坂なおみの専属トレーナーに就任。わずか2ヵ月でスランプに陥っていた大坂を再生させ、全米、全豪と立て続けのメジャータイトル奪取に貢献。世界のプロスポーツ界で最も注目されるフィジカルトレーナーのひとり。トレーナーとしての豊富な経験と知識を生かし、一般の人に向けた入門書『世界最高のフィジカル・マネジメント』を上梓した。