介護支援の充実を訴える安斉さん（左）。待遇改善や人材確保に向けた具体策を望む

　衆院選を戦っている各党は医療・介護・福祉分野の賃上げや医療費窓口負担の見直し、「マイナ保険証」の是非などに関する公約を掲げている。福島県内の医療や介護の現場からは人手不足の解消をはじめ、山積する課題の解決につながる論戦を望む声が上がる。 　太田西ノ内病院などを運営する太田綜合病院（郡山市）の理事長太田善雄さん（４８）は、医療関連の政策が選挙の主な争点となっていないように見ている。「健康や生命に直結する医療界の将来を考えてくれているのか」と疑問を呈す。 　県の推計では、県内の６５歳以上の高齢者は２０４０年度に４割を超える。医療人材の需要が増え続ける一方、系列の太田看護専門学校の入学者は２年連続で募集定員を下回った。将来も医療従事者を確保できる確証はない。用品補充や食事補助などを担う「看護補助者」の活用など、人材確保への後押しを政治に望んでいる。 　医療機関の経営環境も厳しい。全日本病院協会などの調査では、コロナ禍以降の医業利益でみた全国の赤字病院の割合は７０％を超える。経費の増大分は、診療報酬の枠組みで賄うしかない。太田さんは良質な医療提供体制を維持するためには社会保障制度自体の議論が必要と指摘。「現実から目を背けず、２０年、３０年先の医療を考えてほしい」と期待する。

　　　◇　　　　◇　 　三春町のデイサービスセンター「きずな」は、利用する高齢者約１７０人に入浴や運動、食事などの介護サービスを提供している。管理者の安斉徹さん（５１）は介護職の処遇改善や人材確保などに関する具体策に踏み込む政党、候補者が少ないと感じている。 　スタッフ約３０人のうち２３人を女性が占める。産休や育休の職員が出た際は、知人から人材を紹介してもらうなどしてやりくりしている。法定の人員配置への対応も悩ましい。介護業界では施設規模などに応じ、必要な介護士や看護師の数が決められている。安斉さんは「働き手を集められずに運営できなくなる施設が出てしまうのではないか」と懸念を示し、地方の実情に合った制度の見直しや支援策の充実を求める。「利用者はもちろん、職員も不安なく暮らせる社会を実現するアイデアを示してほしい」と注文する。 　　　◇　　　　◇　 　会津若松市で５店舗の薬局を営む会喜社長で、薬剤師の馬場祐樹さん（３９）は「薬不足が慢性的に続いている」と窮状を訴える。

　馬場さんが働くけやき薬局では、遠くの医療機関で指示された薬の処方を求めて来店する患者が増えているという。薬の在庫がなく、同じ系列の薬局から融通してもらったり、効能が同じ別の薬に変えられないか医師と交渉したりするケースも起きている。 　一部の政党は公約に医薬品の安定供給を掲げているが、馬場さんは薬不足を解消する道筋を求めている。「民間任せにせず、製薬メーカーの設備投資の支援や輸入の促進などの対策を講じてほしい」と訴えている。