ヒバクシャ地球一周 証言の旅へ 80歳の被爆者小川忠義さんと孫が初参加
非政府組織「ピースボート」が核廃絶のために取り組む「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」に長崎市の被爆者小川忠義さん(80)とともに、孫で大学3年の長門百音さん(20)が初めて参加する。13日に横浜港を出港し、105日かけて各国を巡る。長崎原爆の「8・9」を忘れないよう写真で伝える活動を紹介し、「被爆の実相、平和の尊さを忘れないで」との思いを世界に届けに行く。 2008年に始まった「証言の航海」はこれまで170人以上の被爆者が乗船し、世界各地で講話活動を実施。今年は小川さんら長崎、広島の被爆者3人のほか、ウクライナ人7人などが参加し、自身の体験を通して恒久平和を訴える。 小川さんは1歳の時に入市被爆を経験。原爆の記憶が失われる「記憶の風化」に危機感を覚え、09年から毎年「8月9日午前11時2分」に各地で撮影された写真を募集し展示する「忘れないプロジェクト」を主催している。 ピースボートから小川さんに参加の打診があったのは昨年12月。ぼうこうがんの手術のため病院のベッドにいた。同じ頃、妻も病魔に侵され伏せってしまった。この状況で3カ月の長旅。行くべきか、行けるのか。頭に浮かんだのは、妻の姿と長門さんのことだった。 昨年から本格的にプロジェクトに参加した長門さん。交流サイト(SNS)を使い、友人や全国の平和団体に参加を呼びかけるなど、広報活動を担う。当初は多くの人が「いいよ」「やるよ」と言ってくれたが、当日の9日以降改めて連絡を取ると「気づいたら時間が過ぎていた」とのメッセージも少なくなかった。 「今ある平和は当たり前じゃない。戦争を知らない世代にも実感してもらうにはどうしたらいいんだろう」。どうにも消化できない思いと課題に直面した。 そんな悩む姿もそばで見てきた小川さんは思い出した。初めて乗船した12年の体験を。「被爆者の訴えは世界の人の心を動かすこと、写真展の取り組みは世代や国籍を超えて平和の思いを共有できることを実感し、自信になった」。自身の活動の支えとなった旅は、長門さんにも大きな学びとなると信じ、声をかけた。 夏の“宿題”に答えが見いだせていなかった長門さんは、二つ返事で参加を決めた。県内で平和活動に取り組む同世代と比べ、熱意や知識のなさに引け目を感じてどこか積極的になれなかった。「各国の若者や寄港先の人とたくさん交流して思いを吸収する。そして自分の考えを見つけて自信をつけて帰ってきたい」と意気込んでいる。 2人は期間中、シンガポールや英ロンドン、米ニューヨークなどを訪れる。寄港先での講話や交流活動のほか、収集した「8・9」の写真を紹介する船内の展示会も開催する。旅の様子はプロジェクトのSNSでも不定期で配信予定。 (竹添そら)