【今期一番!の声も】小池栄子主演『コタツがない家』が見せた「新しい家父長制」の形
小池栄子(43)主演の秋ドラマ『コタツがない家』(日本テレビ系)が12月20日に最終回を迎えた。さんざんドラマを見尽くしてきたオタク視点から見て、単に面白いだけではなく、何かと革命的な作品だった。 【画像】ドラマでの男女平等を加速させた「あの人気女優」の素顔 ドラマの舞台は深堀家。妻・万里江(小池)が家計を支えつつ、家庭内トラブルを解決していく。夫の悠作(吉岡秀隆・53)は10年以上描いていない漫画家(ほぼニート)で、態度が横柄かつ、御託ならべが得意なクズ男。10年前なら、離婚を勧める人も多かったはずだ。 だが、時代は変わり、日本の家父長制度は崩壊しつつある。ファミリードラマも、時流を読みながら変わろうとしている。そんな変遷をドラマタイトルとともに振り返る。 ◆家父長、嫁姑バトル全盛期の1990年代 まずは1990年代。「夫は社会で働き、妻は家を守る」という風潮のモデルケースドラマといえば、『渡る世間は鬼ばかり』(1990年。以下いずれもTBS系)、『ダブル・キッチン』(1993年)、『長男の嫁』(1994年)が挙げられる。夫は当たり前のように家事をせず、働いていることを強調して休日は寝てばかり。妻は専業主婦で、子どもをたくさん産むことが良しとされていた時代だ。 しかも妻は姑から家政婦扱いを受ける。この嫁いびり演技の名士(?)だったのが、故・野際陽子さんだ。’90年代のすべての嫁姑バトルドラマは、彼女がいたからこそ面白かった。とくに『ダブル・キッチン』で演じた姑の花岡真知子役は、感情のむき出しぶりが最高だった。二世帯住宅に住む息子の嫁に対して、気に入らないことがあれば、鼓を力強く打ちながら悪態をつく。掃き掃除をしたゴミを、息子夫婦のポストにぶち込むこともあった。そんな意地悪をしながらも、愛情の深さも感じさせるという姑役。野際さん以上の適任者をドラマで見たことがない。 ◆お父さんの権限が失われてきた2000年代前半 そして2000年代。昼ドラ『花嫁のれん』(フジテレビ系・2010年)で、野際さんが姑役で貫禄を見せる一方、少しずつファミリードラマに変化が起き始める。 『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ系・2017年)は、タイトルからして斬新だった。旦那さん=父は仕事ができないわけがなく、家長として絶大な権力を誇っていたはず。でも、蓋を開けてみれば、父ちゃんだって人の子。会社で活躍できるタイプもいれば、そうでない人もいる。そんなことをドラマが打ち出し始めた。ちなみにこの頃、私は独立をしていて、さまざまな出版社からの依頼で仕事をするようになっていた。そこで出会う多くの人たちを見ながら「男だからって仕事ができるわけではない、完璧な人もいない」と、悟ったことを思い出す。 そして2021年放送の『知ってるワイフ』(フジテレビ系)では、銀行に勤める剣崎元春(大倉忠義・38)は上司に絞られるだけではなく、嫁の澪(広瀬アリス・29)に怒鳴られる日々。家長としての権限なんぞ、ゼロ。ドラマにおける男女平等のシーソーがだんだん平坦になってきた。 『書けないッ!? ~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日系・2021年)ではいよいよ、働かずに家事全般を引き受ける父・吉丸圭佑(生田斗真・39)が登場。稼ぎは売れっ子小説家の妻まかせ……というところから、物語は始まった。結局は脚本家としての仕事が舞い込んで、生活が変わっていく圭佑。2020年の『極主夫道』(日本テレビ系)も然り、主夫という立場がドラマの中でも、スタンダードに。 ◆家長は各家庭が決める時代に 最近では『私のお嫁くん』(フジテレビ系・2023年)。タイトルからして妻が働き、家事はしないという匂わせも。家事ができる、できないに対して男女差はない。女だからって料理が上手なわけでもない。周囲を見渡せば、店で働く料理人のほとんどは男性だ。 そして冒頭の『コタツがない家』と続く。第8話で離婚を題材に漫画を描きたいからと、万里江に離婚を申し出た悠作。働かないうえに酒ばかり飲み、マイホームの頭金を出してもらった義父に嫌悪感を示す。車を出すときはいつも妻がハンドルを握る。360度、視座を変えてもいいところがひとつも見つからない悠作を、万里江は「必要だ」と言い切った。 第9話で離婚回避。最終話ではついに悠作が『コタツがない家』を発表。売れ行きは芳しくなかったようだけど、万里江にとっては10年間待ち続けた一冊だった。 家庭の形なんてそれぞれで、他人から見ると不均衡でも、当人たちがバランスを取れていればそれでいい。『コタツがない家』から発せられた、新しい家族の提案はとても斬新だった。昔は嫁姑バトルと言われたけれど、深堀家で行われていたのは“婿舅バトル”。万里江の父・達男(小林薫)が相手の行動を逐一メモして万里江に報告する様子を見ていると、女同士のバトルよりも陰湿だった。 ちなみに、万里江の両親は還暦を迎えた後に熟年離婚をしている。妻は綺麗さっぱりとしたもので、新しいパートナーを持ち、入居する老人ホームもすでに決めていた。ドラマ全体を見渡して、この作品は“令和版の渡鬼”だとしみじみ……。もっとこんな家族観を描いたドラマが浸透して、便利な社会になればと願いつつ、『コタツがない家』の続編にも(勝手にだが)期待が高まる。達男が買ったコタツではないけれど、同じく温まるサウナ。あれがどうなっているのかを知りたいのだ。 取材・文:小林久乃 エッセイ、コラムの執筆、編集、プロモーション業にラジオ出演など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k
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