東京・西小山で味わう放牧牛の奥深さ 小さなフランス料理店「caillou」 日進月歩の歩みを止めなかった安達晃一シェフ
【肉道場入門!】絶品必食編 立ち上がったばかりの新店がみるみるたくましくなっていく姿は実に頼もしい。 2年前、東京・西小山に小さなフランス料理店「caillou(カイユ)」ができた。素材はアイランド型の調理場から選ぶスタイルのメニューも楽しく、選り抜きの食材を揃えたメニューなども含め、近隣住まいの友人の評判も上々だった。 それから2年が経つ。大店から独立したシェフが街場で培った技量は分厚くなった。クラシックを土台に、時に新たな素材やメニューにも挑戦する。 先日は北海道様似町の完全放牧牛〝ジビーフ〟1頭分を使った食事会がシークレットで行われた。 都内では(以前、小欄で紹介した「Samani」など)数軒しか扱いがない肉は、全部位を同時に味わうことなどほとんどない。以下に当日の特別コースの概要を記しておく。 マルシン(シンシン)のタルタル仕立てに始まり、レバーはソテーとコンフィで2方向の味と香りを醸し出した。 センマイはカツレツとなりサクッとした食感が加わり、細かく切った大腸、小腸、盲腸は弾力あるパイ包みに仕立てられた。ミノ、アカセン、ほほ肉、アキレス腱は煮込み料理のカスレとして深い味わいと複合的な食感が重なり合う。 そしてソテーされたハラミとタンのザクザクとした食感の後は、濃厚な味わいをまとったハチノスとハツモトのオニオングラタンスープを挟んで、メインのリブロースの溶岩グリルへ。噛むほどに膨らむ放牧牛の味わいの奥行きにうっとりする。 オープン間もない頃は、難度の高い溶岩石グリルの扱いに苦慮していたし、パテを大きな型から薄く切り出すなどの試行錯誤も目についた。 安達晃一シェフは日進月歩の歩みを止めなかった。一緒に〝ジビーフ〟の里である様似町も訪れたこともある。グリルの扱いは2年間で見違え、彩り豊かな皿の上からも迷いを感じることはほとんどなくなった。 通常営業ではオープンな冷蔵フェースにマルシェのように並べられた素材や品が客の好みに応じて組み立てられる。「男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」。連載400回の今回、この店を紹介できることを光栄に思う。 ■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しい。新著「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社刊)発売中。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。