経営危機が続く地方競馬の現状と課題
6月はじめ、名古屋競馬の赤字体質が報道され、大きな話題を呼びました。黒字化が急務で、もし改善できなければ今年度をもって廃 止の可能性も浮上しています。これに限らず、公営競技の売上はバブル崩壊直後の1991年度をピーク時に年々減少を続けています。地方競馬については、91年度の約9,862億円をピークに減少し、2012年度の売得金額(勝馬投票券の発売金から返還金を引いたもの)は、約3,326億円でピーク時の33.7%まで低下しています。 実は、2000年代前半に地方競馬の廃止が集中した時代がありました。2001年度に中津競馬(大分県)と新潟県競馬、02年度には足利競馬(栃木県)と益田競馬(島根県)、03年度には上山競馬(山形県)、04年度には高崎競馬(群馬県)と宇都宮競馬(栃木県)と続きました。 その後、馬券等の発売に対する民間委託が可能となったこと、賞金や人件費等の見直しなどにより、経費の大幅な見 直しが進みました。ナイター競馬開催の増加、IT技術の進歩により、民間参入によるインターネット発売が増加し、売上が減少しても利益が出るような経営体質に変わりつつありました。 それでも、近年では2011年度に荒尾競馬(熊本県)が、2012年度に福山競馬(広島県)が廃止されました。これらの原因としては、中央競馬(JRA)との競合が挙げられます。集客が見込まれる土日にレースを開催すると、土日開催のJRAとで日程が競合してしまいます。一方で、平日に開催すると集客を見込むことはできません。また、経費削減のために賞金の削減が進むことで、出走する馬の確保が難しくなります。そのため、同じ馬の組み合わせでレースが繰り返されることになってしまい、レースの魅 力が減少したとも言われています。こうしたことなどが、売上を伸ばせず、廃止に追い込まれた理由として考えられます。 大都市圏の競馬場は、平日開催を主として、JRAと競合しないような日程を組んでいます。そんな中、名古屋競馬が苦境に立たされてしまった理由は、立地が市街地であるため、ナイターでのレース開催ができないことが大きな理由となっています。名古屋競馬の経営改革に関する検討結果報告書(案)の試算によると、このまま開催した場合には払戻金を75%から70%に下げなければ黒字の確保は難しく、存続は一筋縄ではいかないようです。 一方で、経営が苦しくても、廃止という選択が難しい地方もあります。ホッカイドウ競馬、岩手競馬は、これまで廃止された競馬場 と同様に多額の累積赤字を抱えていますが、馬産地であることから急に廃止することはないと考えられています。 一部を除いて、依然、改善されない経営状況ではありますが、廃止が地方財政にとって最善策ではありません。競馬場は厩舎関係者の他に、場内の馬券発売等の業務、警備・清掃などがあり、地域の雇用を支えているという側面もあります。そのため競馬場の廃止は、多くの失業者を生む危険性も含んでいます。地方競馬存続の議論は、地域の雇用情勢にも影響を与えるため、慎重に取り組む必要があるでしょう。 (執筆者・山本将利) 山本将利(やまもと・まさとし) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 政策研究事業本部 経済・社会政策部 主任研究員 1990年東京大学理学部卒、同年三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社。地方財政や地域振興に関する調査研究、公的セクターの経営コンサルティングを手がけるなかで、競輪、地方競馬など公営競技に関する経営コンサルティングも手がけている。小田原市、立川市、東京都十一市競輪事業組合において、競輪事業のあり方に関する検討委員会の委員、地方公共団体向け財政融資のあり方に関する検討会(財務省)委員も務めた。2010年より中央大学経済学部客員講師。