イワタニの"UFO戦略" 光り輝く11万円のコンロが切り開く「高くてイイモノ」の世界市場
光輝く金色のカセットコンロが話題を呼んでいる。価格は、なんと8万2500円。さらに専用の桐箱まであり、箱のお代は2万7500円。セットで11万円(!)にもなる。 【写真】光り輝く威容…この違い、おわかりいただけただろうか? 商品名は「イワタニ カセットフー 極 KIWAMI」。その名の通り、従来のカセットコンロを“極”めた逸品、という触れ込みだ。カセットコンロの国内シェア85%を誇る岩谷産業(大阪市)が手掛けた。 売れ行きは好調だ。今年1月末に同社のECサイトと直営店で販売を開始したが、2月中旬には完売。商品企画を担当した同社カートリッジガス本部の遠藤勇太さんは「想像以上の反響です」と話す。 「高すぎて叩かれないかな、という心配もあったのですが(笑)、ネットなどの反応を見ていると、本商品の価値を評価していただいている方が多く、うれしく思っています」 開発のきっかけは、デザイナーの山本卓身氏が、同社の水素燃料電池船のデザインを担当したことだった。同社から山本氏にカセットコンロのデザインを依頼し、企画から開発までに約10カ月を要した。 そのこだわりのデザインで、まず目を引くのが、「形」だ。カセットコンロといえば四角く、分厚いという野暮ったいイメージがあるが、「極」は円形で、五徳(ごとく)と脚が一体になっており、まるで光を放つUFOを逆さにしたようなすっきりとしたフォルムだ。見た目の重厚感や質感にもこだわったという。 「重さが従来品と比べて1キロほど重くなっていて、堅牢さと重厚感があります。表面もレザートーン塗装を施しました。簡単に言うと、一般的なカセットコンロでは一層塗りのところを三層塗りにして、マットな手触りに仕上げています」(遠藤さん) 専用の桐箱は、京都市にある老舗の工房「箱藤商店」の職人による手作りだという。 「贈答用としてのニーズも想定して、高級感のある箱も製造しました」(同)
「極」のメインターゲットは国内外の富裕層などだという。 前述の通り、既にカセットコンロで国内シェア85%を占めているため、販売戦略の一環としてこれまでにない新たな需要層獲得を視野に入れた、ということらしい。遠藤さんは言う。 「海外にもカセットコンロのメーカーはありますので、そのなかでも目に引くように、当社ならではの技術やデザインの粋を極めました」 IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんは、「名前通り、『究極』のカセットコンロを作ろうという岩谷産業の意気込みを感じる」と話す。 「高くてもいいモノであれば、買う」という消費者マインドをベースに開発に踏み切ったのではないか、ともみている。 高くてもいいモノにお金を出すというトレンドが社会に広がってきた一つのきっかけとして、「バルミューダが高級家電を出し始めたことが影響しているのではないか」と安蔵さんは指摘する。 たとえば、同社が2010年に発売した高級扇風機「GreenFan」だ。価格は3万5千円。扇風機としては破格の値段だが、これが大当たり。その後も同社は、15年に「BALMUDA The Toaster」を2万5千円で販売し、こちらも大ヒット商品となった。 「こういった流れをバルミューダが作り、その後、コロナ禍が来て家にいる時間が増えたことで、『高くてもいいモノは買う』という消費者マインドが醸成されていったのだと思います。『極』もこういったトレンドをベースにしているのではないでしょうか」 さらに、安蔵さんは「デザイン性に振り切っているのもおもしろい」と話す。 「一般的な家電メーカーだと、デザインを重視はしても、機能性を優先して追求することが多い。しかし、『極』はデザイン性にこそ重点を置いているように見えます。こういった発想は、家電メーカーではない岩谷産業だからこそできたのではないかと思います」 現在は一時品切れ中の「極」。再販は4月末頃を予定しているという。 もしも「極」で煮炊きをする日が来るのなら、記者は水炊きを合わせたい。食材もこだわり、肉は薩摩地鶏、薬味に大分県産の柚子胡椒。高価な土鍋も買わないと雰囲気が出ないだろうか、……叶わぬ妄想が止まらない。 (AERA dot.編集部・唐澤俊介)
唐澤俊介