北村匠海×綾野剛が語る、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』──「絶対にあきらめない」という熱狂が、“祈り”に変わっていった
12月14日、全世界が待望した実写版『幽☆遊☆白書』の配信が開始された。主人公の浦飯幽助を演じた北村匠海と、幽助の最強の敵となる戸愚呂兄弟の弟を演じた綾野剛に、ふたりの出会いから撮影の裏話まで、じっくりと話を聞いた。 【写真つきの記事を読む】ふたりのカッコいい写真をもっと見る!(全13枚)
“ついに”という言葉がふさわしい壮大な作品が、全世界に放たれた。制作期間5年を費やした実写版『幽☆遊☆白書』である。全5話構成のNetflixシリーズである本作は、言わずと知れた冨樫義博の人気漫画が原作。暴走する車から子どもを守った結果、命を落とした幽助(北村匠海)が、人間界に入り込んだ妖怪たちの事件を解決する“霊界探偵”として復活。蔵馬(志尊淳)、飛影(本郷奏多)、桑原(上杉柊平)といった面々を仲間に加え、人間界を混沌に陥れようとする左京(稲垣吾郎)や戸愚呂兄弟(滝藤賢一・綾野剛)に立ち向かっていく。 『GQ JAPAN』では、宿敵同士を演じた北村匠海と綾野剛の対談が実現。ふたりの出会いから怒涛の撮影の日々、『幽☆遊☆白書』というコンテンツの魅力まで、存分に語ってもらった。 ■実写化という“クレイジー”な取り組み ──はじめに、北村さんと綾野さんの初対面時の思い出を教えて下さい。 北村:剛さんと初めてお会いしたのは、小栗旬さんが監督された映画『シュアリー・サムデイ』(2010)です。図らずも、役名が「たくみ」でした。その作品に剛さんもいらっしゃったのですが、大人になって剛さんと再会した際に、まずその話をしてくださったのが印象に残っています。 綾野:役者を長く続けている最大の喜びは再会なんだと、匠海くんが答えを出してくれた瞬間でした。 ──そこから約10年を経て、『幽☆遊☆白書』で主人公とその最大の敵として対峙するのは運命的ですね。 北村:とても長い撮影期間のラストにようやく会えて、お互いにやっと全貌を見られた感じでした。それまでは、月川翔監督から「先日、あのカットを撮影してきました」というお話を共有していただいたり、小栗旬さんから「この間、剛に会ったらすごい体つきになってたよ!」といったお話を聞いたりしていて。 実際、剛さんが戸愚呂を演じている写真を見たら、本当に信じられない大きさになっていて「嘘でしょ!?」と思いました。戸愚呂は劇中で筋肉をビルドアップするので変身前はシュッとして見えるのですが、実際にその状態の剛さんを見たらとんでもない筋肉量で……。現場でその姿を目の当たりにして、「すごい……。今からこの人と戦うんだ」と圧倒されました。 綾野:『幽☆遊☆白書』を実写化しようと志したクレイジーな方々が集まって、その中心で匠海くんが何年もの月日をひとつの役に向き合い続けないといけない大変さに比べたら、僕がやったことはその瞬間に生み出したものに過ぎません。作品に対する敬意と勇気を持って、熱狂する作品を作ろうとするスタッフとキャストの気概に触発されました。 その気持ちに自分がきちんと応えるにはどうしたらいいかと考えたとき、身体を大きくすることも一つにはあるのですが、毎日鍛錬することによる“痛み”や“苦しみ”を肉体に宿していく作業が必要でした。戸愚呂自身もそうだったと思いますし、幽助も戸愚呂にたどり着くまでに鍛錬に向き合ってきた。それらはすべて眼に宿るんです。その“眼”を作るためにも、肉体と向き合う必要がありました。 ■キャラクターと向き合った3年間 ──北村さんが本作に費やした期間は、実際にどれくらいだったのでしょう。 北村:僕は準備も含めると約3年間です。2020年ぐらいにお話をいただいて。映画『東京リベンジャーズ2』の裏でこちらのアクション練習とカメラテストをやっていて、実際にカメラを回していた日数は1年半くらいだったと思います。この期間、ほぼヤンキーしかやっていなくて(笑)。 綾野:髪が黒(『幽☆遊☆白書』)か、金髪(『東京リベンジャーズ2』)かですね(笑)。 北村:そうです(笑)。『幽☆遊☆白書』の撮影が空いて、その間に『東京リベンジャーズ2』を撮って、また『幽☆遊☆白書』に戻って……というような期間でした。来る日も来る日も、ずっと戦ってましたね。 綾野:北村匠海という役者は、繊細さと“不良性感度”のハイブリッドであって、ずっと魅力的な人です。 ──先ほど、おふたりは「ラストでやっと会えた」というお話がありましたが。 綾野:僕も匠海くんが演じる幽助の話を月川監督から聞いたり、写真を見せてもらったりしていたので、最後に出会えたときは嬉しかったです。 北村:そこから戸愚呂戦だけで1カ月以上撮影期間がありました。1本映画を作れるくらいの時間をかけて、ワンシークエンスを撮っているんです。「やっと会えたね……」状態から、お互いにほぼ毎日顔を見合わせることになって(笑)。 綾野:まるで合宿でした。 北村:そうですね。剛さんに関しては、そこからロサンゼルスでの撮影(註:LAにあるScanline VFXのスタジオで戸愚呂の表情だけを撮影し、CGで作った肉体と合成するボリュメトリックキャプチャという手法の一環を使用)もありましたから。完成版を観たときは感動的でした。本当に出来上がって良かったなという気持ちと、剛さんが日本から出て環境も違うなか、顔だけの一人芝居でものすごい球を返してくれたなという感謝と……。その場に自分は行けませんでしたから。 綾野:LAに行く何週間も前に、「幽助が霊丸(レイガン)を撃つ表情を見続けたいので、素材を頂けませんか」とチームにお願いしました。その眼差しを目に焼き付けていったので、僕の中では匠海くんと一緒に行っているつもりで、心は共にありましたし、孤独感は全くありませんでした。Scanline VFXのチームも本当に素晴らしいチームで、カメラの周りにあるモニター画面に幽助の顔をドンと出してくれたんです。そのときに自分の(芝居の)スイッチが完全に入りました。 今回、ボリュメトリックキャプチャで撮影したシーンは、役作りの観点から、呼吸もしていない無酸素のような状態で一気に追い込んだので、ブラックアウトしかけたこともあったのですが、現場で(モニター越しの)匠海くんと目を合わせられたことで芝居が引き出されました。Scanline VFXは素晴らしいCGやVFXを作り出してくれましたが、それらは圧倒的な現場のアナログの積み立ての上にあります。まさに芝居とVFXが共存していました。 北村:霊丸ひとつ撃つにしても、ものすごくアナログなんですよね。VFXに頼れるところはもちろん頼るのですが、結局はみんなの肉体ひとつで作り上げた感じがします。アクションをし続けてボロボロになり、現場でみんなが味わう肉体的な痛みが蓄積されて、撮影の中間くらいで「いつ終わるんだろう」と思い始めて……。どこかで永遠に終わらない気もしたし、でも確実に終わりに向かっている感覚もあって、なんとも複雑でした。自分が幽助と向き合っていた3年間はかけがえのない時間で、戸愚呂戦が終わった後に「やっぱり終わっちゃうよな」という寂しさを強く感じました。 ■あふれんばかりの熱狂が祈りに変わる ──綾野さんが、先ほど『幽☆遊☆白書』の実写化に挑戦することを“クレイジー”と評されていましたが、この物語が30年以上も愛される理由はどういうところにあるとお考えですか? 北村:僕はいま26歳なので、原作の連載開始当時はまだ生まれていません。とはいえ、子どものころから原作は読んでいました。 そして今回、『幽☆遊☆白書』という作品がこんなにも世界に届いているんだ、日本のアニメーションや漫画がこれだけ世界で評価されているんだ、ということを痛感しました。剛さんと一緒に海外のマスコミの取材を受けたとき、記者の方々の顔つきや目、熱量が凄まじくて、「本当に愛されている作品なんだ」と、改めて感じたんです。 なぜ日本を飛び越えてここまで人気なのかを考えたとき、この漫画には全てが詰まっているからだと思い至りました。アクション的な要素はもちろんなのですが、キャラクターのバランスも含めて、30年以上前に富樫先生がものすごいものを完成させていたんだ、と。時代によって様々な少年漫画が流行るわけですが、『幽☆遊☆白書』はコメディ要素や人間模様など、まったく隙がないんです。大人になってから改めて読み直して、「なんて抜かりのない作品なんだ!」と感じました。 綾野:僕たち役者は、役の時間とともに存在しているので、アクションをすれば汗をかいて疲弊していきますし、人を好きになれば体温も変わっていく。そういったものが全て画面に映ります。一方で、漫画はそうしたものを創造化していくわけですが、『幽☆遊☆白書』は、幽助を中心に様々な人物の感情が読み手に立体的に伝わるような手法を使っているように感じました。単純に勝つ・負ける、上り詰める・落ちていく、というのを具体的に描くというよりも、メタファーに近い印象といいますか。 だからこそ、この作品を実写映像化しようとすること自体はクレイジーではありますが、クレイジーとチャレンジは紙一重の関係です。更にチャレンジのその先に行けば行くほど、この作業は「祈り」に近いとわかりました。自分たちがどこまでできるか、というチャレンジと共に、「絶対にあきらめない」「立ち向かうんだ」という熱狂が祈りや願いに変わっていく──。それらが全て作品に詰まっています。「ぜひ観て下さい」というのが、全ての答えであり、いまの想いです。 北村:いまの時代には、「自分を表現したい」という欲求に駆られている人がたくさんいるなかで、『幽☆遊☆白書』に出てくるキャラクターは、全員がそうした欲求の塊だと感じます。それが今回集まった役者からも出ているし、「僕たちはあふれんばかりの熱狂をもってやったぜ、だから本当に観てくれ!」と思っています。すごくクレイジーな体験でした。 綾野:次回はぜひ、お互い人間の役で会いたいです。次が3本目の共演になるので、「三度目の正直」ではないですが、普通の会話をしてみたいです。 北村:確かに(笑)。 綾野:きっとそれもまた熱狂の作品になると思うので、楽しみです。 ------------- 【お知らせ】 アザーカットを、Instagramに近日投稿予定! @gqjapan をフォローしてお待ち下さい。お楽しみに!GQ JAPAN公式Instagramアカウント: https://www.instagram.com/gqjapan/ -------------- Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』Netflixにて独占配信中 © Yoshihiro Togashi 1990年-1994年 原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊) 作品ホームページ:https://www.netflix.com/title/81243969 取材と文・SYO、写真・山田 陽 スタイリスト・Shinya Tokita(北村)、申谷弘美(綾野) 編集・横山芙美(GQ)