8月15日、メカクシ完了──多くの人が共に思春期を過ごした『カゲプロ』の特別な日に寄せて
『カゲプロ』が内包する憧れとロマン、架空性とリアリティ
『カゲプロ』が絶大な人気を誇った一番の理由は、やはり架空性とリアリティの絶妙なバランスだろう。2010年代突入以降インターネットが一気に大衆的なものとなり、VOCALOIDという音楽コンテンツに触れ始めた新規リスナーと、作中キャラたちの世代境遇が非常に近かった点も大きなポイントだ。 現実との摩擦に苦しむ思春期を過ごす彼らにとって、作中キャラたちの奮闘は等身大の物語であり、また一種の現実逃避として理想の自己を投影しやすいシチュエーションでもあった。作中の秘密結社・メカクシ団への憧れや、その象徴である服装、セリフの模倣など、コンテンツへの熱中ゆえに作品への没入感高い振る舞いをした経験は、『カゲプロ』と共に思春期を過ごした人々にとってもはや通過儀礼の一つでもあったことが窺える。 中には大人になってから、若く青い、痛々しい経験としてそれを語る人もいるだろう。しかし、本コンテンツの世界観に詰まった現実とフィクションの表裏一体性、そこに由来する憧れやロマンは、年を経たからこそその魅力を理解できる人も大勢いるのではないだろうか。 己が預かり知らぬだけで、もしかしたら『カゲプロ』の物語は、今日もどこかで進行しているのかもしれない。 憧れた作中のキャラたちは、自分と同じ世界線を生きて、街の雑踏に人知れず紛れこんでいるのかもしれない。 大勢のファンのそんな“if”の想いが、今年も8月15日への言及に繋がっていく。そうしてこれからもこの日は特別な1日として、『カゲプロ』の魅力とともにシーンで脈々と受け継がれていくのだろう。
曽我美なつめ