『無能の鷹』が示したリモートワークの可能性と課題 “鶸田”塩野瑛久の不穏なエピローグも
鷹野(菜々緒)と鶸田(塩野瑛久)をようやく同期と認めた烏森(永田崇人)
TALONの開発部に所属する燕谷(今井隆文)もコロナ以降リモートに移行し、会社に姿を現していなかった。そんな中、燕谷は就活生の会社訪問の担当に選ばれるが、人事部の烏森(永田崇人)がいくら会社に呼び出しても、リモートなら対応すると一向に来る気配がない。当日も出社しなかったため、燕谷を探しに行った烏森はクライアントとの打ち合わせ終わりの鷹野と鶸田に遭遇。協力して燕谷を無理やり会社に連れて行こうとする。それでも抵抗を見せる燕谷の心を動かしたのは、開発部のみんなの「会って顔が見たい」というシンプルな願いだ。 住居も持ち物も会社の人とのコミュニケーションも捨て、身軽に生きてきた燕谷。捨ててみた結果、特に何も支障はなかった。別に会社の人とコミュニケーションを取らなくなっても、仕事はできる。むしろ一人の方が捗って効率的だ。じゃあ、わざわざ会社に行く意味とは? それは、ただ会って顔が見たい、話がしたいというシンプルな理由でいいのかもしれない。同僚という家族でも友達でもない関係性だからこそ意味がある。鷹野、鶸田、烏森の同期3人組もそれぞれタイプがバラバラで、もしリモートワークだったら話すことさえなかったかもしれない。だけど、会社という場所で否が応でも顔を突き合わせてきたからこそ、今まで同期という関係が保たれてきたのだから。 会社訪問は燕谷が参加し、鷹野がまた奇跡を起こしたことで大成功となった。おかげで人事部での評価も上々な烏森は協力してくれた鷹野と鶸田をようやく同期と認め、お礼に「サンキューポイント」を送る。通称“サンポ”は、朱雀部長(高橋克実)の提案で社内に導入された感謝を伝え合うアプリ。ポイントを貯めたら景品がもらえるとあり、鵜飼(さとうほなみ)のように同僚から感謝を搾取する者も現れて、早々に廃止されそうだ。だけど、烏森のように、素直にありがとうが言えない人にとっては意外と役立つアプリかも。本作はリモートワークに関しても否定しているわけではなく、良い面と課題点の両方を見せて、何事も使い方次第だと教えてくれる。「リモートワークもいいけど、たまには会社の人と会って話をしてみたら?」という柔軟で軽やかなテンションが心地良い。 一方で、「僕はこの関係がずっと続くと思ってたんだ。この時までは」という鶸田のエピローグは不穏だ。この賑やかで愛おしい鷹野たちの日常が何らかの原因で壊れるというのだろうか。
苫とり子