Re:ゼロ、よう実、たんもし……ヒット作が続々誕生! MF文庫JがKADOKAWAラノベの頂点に立てた理由
スニーカー文庫や電撃文庫など、幾つものライトノベルレーベルを持つKADOKAWAにあってMF文庫Jが好調だ。2022年のKADOKAWAにおけるライトノベルレーベルで売上げナンバーワンになり、2023年に入っても『このライトノベルがすごい!2024』のベストテンに『死亡遊戯で飯を食う。』『ステラ・ステップ』『探偵はもう、死んでいる。』を送り込んで存在感を見せている。MF文庫J好調の理由はどこにあるのか? 【画像】カバーイラストも魅力的な『探偵はもう、死んでいる。』などの話題作 あなたはいつからMF文庫Jを読み始めたのか。2002年の創刊から21年もの時が経っているレーベルだけに、その答えも様々だろう。TVアニメになって釘宮理恵が演じるルイズの愛らしさで大人気となり、異世界転移・転生がブームとなるきっかけも作ったヤマグチノボル『ゼロの使い魔』を挙げる人が多そうだが、TVアニメ化なら『ゼロの使い魔』より早かった桑島由一『神様家族』を挙げる人もいるかもしれない。 ほかにも、栗林みな実の主題歌「STRAIGHT JET」が印象に残る弓弦イズル『IS(インフィニットストラトス)』や、田村ゆかりの名曲「Fantastic future」を主題歌に使ったさがら総『変態王子と笑わない猫』といった、アニメ化作品から入ってその存在を知り、他の作品へと目を向けていったルートが考えられる。『宇宙よりも遠い場所』のいしづかあつこ監督が、TVシリーズに続いて監督した映画『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』の傑作ぶりを心に刻みつつ、異能だけではなく知恵も使って戦う設定のストーリーを、楽しむようになった人もいるはずだ。 時々に強い印象を残す作品を、途切れず刊行してきたMF文庫Jだが、それだけでレーベルのトップを張れるほど、KADOKAWAのライトノベルレーベル群は優しくない。鎌池和馬『とある魔術の禁書目録』に川原礫『ソードアート・オンライン』に佐島勤『魔法科高校の劣等生』と、2000万部3000万部といった累計発行部数を誇る作品が並ぶ電撃文庫があり、「異世界かるてっと」の一角を占める暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!』を持つスニーカー文庫がある。ファンタジア文庫も橘公司『デート・ア・ライブ』が世界で人気だ。 そうした、金字塔がそびえまくっている状況の中で、MF文庫Jがレーベルとして2022年の売上げナンバーワンを達成できた背景には、『このライトノベルがすごい!2023』で文庫部門の第1を獲得し、殿堂入りを果たした衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』への支持と、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』の安定した人気ぶりがあるだろう。両作品とも、新刊が出るたびにRakutenブックスのライトノベルラベルランキングで上位に入って、支持の高さを見せつけてくれている。 音楽やボカロ曲を元にしたノベライズ作品に力を入れていることも特徴だ。古くは音楽ユニット「Last Note.」の小説デビュー作『ミカグラ学園組曲』があり、150Pを"主犯”とした『終焉ノ栞』があった。最近は、かいりきベアの『ベノム』を原作にした『ベノム 求愛性少女症候群』のシリーズが刊行され、Chinozoの楽曲『グッバイ宣言』の小説や続編『シェーマ』なども登場。楽曲のファンやアルセチカのイラストのファンを引きつけているようだ。 太い柱が安定した読者を得てしっかりと市場を固め、ボカロ曲のファンもしっかりと確保しているMF文庫Jでは、続く新鋭が今までにない面白さを持った作品で、新しい読者を呼び込んでいる。まず挙がるのが、二語十『探偵はもう、死んでいる。』だ。 死んでしまった美少女探偵の意思を継ぐように、探偵のような活動を始めた少年に起こる事件の数々。ミステリのようでアクションでもありSFにもなるジャンルの変幻自在ぶりと、どこかクールさを感じさせる文体で綴られるは、異世界転生・転移やラブコメといった人気ジャンルの中で物珍しさを感じさせた。 流行とは外れたそうした特徴を、ハンディとはせず逆にアピールポイントとして打ち出すPR戦略もあって大勢の関心を誘い、スタートダッシュを果たした『たんもし』は、初年度から『このライトノベルがすごい!2021』の文庫部門第4位に入り、最新の『このライトノベルがすごい!2024』でも文庫部門第10位と、4年連続でベストテンに留まり続けている。すでにTVアニメもされ第2期も決まっているようで、次の柱になるシリーズと期待されている。 『このラノ』初登場が第4位だった『たんもし』に負けないスタートダッシュを切ったのが、『このライトノベルがすごい!2024』で第2位となった鵜飼有志『死亡遊戯で飯を食う。』だ。金持ちたちが新しいショービジネスとして密かに立ち上げたのは、少女たちが大金を目的に命をかけて戦う様に賭けるというデスゲーム。幽鬼という名の少女はそのゲームへの参加者のひとりで、閉じ込められた館で仕掛けられた罠をくぐり抜けて脱出を目指すゲームに挑み、捕まれば殺される鬼ごっこで逃げ切ろうとあがく。 KADOKAWAなら角川ホラー文庫の方が相応しそうな設定だが、血や内蔵が飛び散るようなスプラッタ描写を抑えてゲーム感を出し、幽鬼を始め参加する少女たちのキャラクター性を増して因縁めいたものを仕込むことで、感情を乗せて続きを読んでいきたいと思わせる。ねこめたるが描く幽鬼をはじめとした少女たちの愛らしさも、内容の陰惨さを覆って目を引きつける。TVアニメ化が決まれば、そちらから入る人に驚きを与えそうだ。 MF文庫Jの覇権は続くのか。2022年のトップではあったものの2023年については確定しておらず、アニメ化が決まった燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』を持ち、谷川流の『涼宮ハルヒの劇場』が制作中というスニーカー文庫の巻き返しがあったり、やはりTVアニメ化決定の菊石まれほ『ユア・フォルマ』を刊行している電撃文庫が、創刊30周年を迎えて心機一転とばかりに大技を繰り出してきたりするかもしれない。 受けるMF文庫Jも、11月に刊行の眞田天佑『多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉』で平行世界というガチSF設定で恋愛要素も絡めたスリリングな物語を繰りだし、詐欺師の男と異能力者の少女がバディを組んで相手を欺し、戦いながら冒険を繰り広げる滝浪酒利『マスカレード・コンフィデンス 詐欺師は少女と仮面仕掛けの旅をする』で読み応えのある物語世界を見せている。 『このラノ!2024』で6位の林星悟『ステラ・ステップ』もアイドル×SFという、往年のライトノベル好きが好んだ設定を令和の時代に再生させ、女の子どうしの関係も描いて読ませてくれる。19位の三河ごーすと『義妹生活』のような安定株も引き続きもり立てていくことで、数あるライトノベルレーベルの中で緑の背表紙の存在感を見せ続けそうだ。
タニグチリウイチ